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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2007/07/14 更新

いつか読書をする人へ


井上いつかがおすすめする本です。


ノンフィクション

現実入門

著者:穂村弘

出版社:光文社

現実入門

21世紀に入ってしばらく経ちました。
ささやかですが、わたしは日々変わっています。20世紀の頃のわたしが、今のわたしに会ったら、その変貌ぶりに気絶してしまうかもしれません。
なぜでしょう?前はあんなに嫌だった事、ありえなかった事を受け入れられるようになってきたのは。
納豆が食べられるようになりました。今では朝食に欠かせません。これでもう食わず嫌い王に出演できないなぁ・・・あ、あとブドウがあった。
テニスをするようになりました。しかも楽しんでいます。小・中・高校と、ほとんど体育の授業にも出ず、一生スポーツとは縁のない人生と思っていたのに。
車の免許を取りました。あれほど人に言われても、わたしには必要ない!と言っていたのに。お酒が飲めないので、飲み会で重宝されるのが怖くて周りにはあまり言ってませんが。
肉じゃが作れます。以前は「まずいカレー」が作れる特殊な料理センスでした。高校の調理実習は、わたしのせいでひとつの班が居残りになったほどでした。「おにぎりを失敗する女」と呼ばれた事もあったなぁ。
実は理由はなんとなくわかっています。
今までなるべく立ち向かわないように、ぶつからないようにしてきた「現実」。それから逃げ回るのに限界が来たのです。本当なら一生避けてやり過ごして、おうちで読書とコーヒーを楽しみながら一生を終えたかったのですが、どうも人生そんなわけにはいかないようです。ひとつ受けとめると後は次から次へと押し寄せる波のような「現実」。もう飲み込まれていくばかりです。
「現実入門」を読んで、著者の穂村さんをまたさらに好きになりました。42歳になるまでこんなにも「現実」を避け続ける事ができたなんて!どうもわたしはだめな男の人にキュンとくるたちのようです。そんな所も自分の「現実」を見ていないなぁと感じていますが。
彼が「現実」と対峙する様は、いじらしくてかわいそうで、胸がしめつけられる思いです。「いいんだよ、穂村さん!そんな事はやめて、部屋に引きこもって一緒に菓子パンを食べていようよ!」と引き止めてしまいたくなります。
献血、はとバス、合コン、競馬などの、お手軽な「現実」から、部屋探し、ブライダルフェスタ、プロポーズなど逃げ出したくなる重い「現実」まで。
体験エッセイのはずが、穂村さんの人生が変わってゆきます。
うわぁ・・・・・・・・・・・・・・・。
わたしが今直面している「現実」なんて軽いものだなぁ。ああ、ビッグウェーブが怖い。
重いのはもうちょっと先にしてもらいたいなぁ・・・。
22世紀・・・までは待ってもらえないですよね☆

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