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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2007/11/19 更新

いつか読書をする人へ


井上いつかがおすすめする本です。


フィクション

ねじまき鳥クロニクル

著者:村上春樹

出版社:新潮社

ねじまき鳥クロニクル

本棚の前に立ち、今日はどんな本を読もう、と考えます。
最近は、軽いものしか読んでいないな、と気付きました。そうだ、大きくて、深い、感動するものを読もう。心の中ががらっと変わってしまうようなやつを。そう思い、久し振りに「ねじまき鳥クロニクル」を手に取りました。
この本を最初に読んだのは高校生の時です。
夜、眠る事ができなくて夜中ずっと本を読んだり映画を観たりしていた頃がありました。夜が明けてしまうまでに読み終えてしまわないような、長い物語ばかり選んでいました。本の中の世界が終わり、真夜中の現実にひとり、取り残されるのが怖かったのです。
国語の授業や書評のように、物語の意味や、何を表現しているのか、など難しい事はわたしにはわかりません。ただ物語を追い、登場人物ひとりひとりに自分の心を重ね合わせていくだけです。自分には理解できないと思う人物や悪に思える物事も真剣に想像します。
その夜は、「ねじまき鳥クロニクル」の第3部をほとんど読み終えそうな所でした。面白くて面白くて、読み終えてしまうのが惜しくて、最後から4章目を読み終えると、わたしは部屋の明かりを消しました。そのまま眠れそうな気がしました。
しばらくベッドの上に、ひざを抱えて座っていました。急に頭の中がぐるぐると騒ぎ出し、ときめきのような胸のざわつきが起こりました。
何だろう、一体何が起こったんだろう。
カーテンを開きました。満月の光が部屋を照らし出しました。
今は真夜中で、満月で、わたしは十七歳の少女だ。
それは、さっきまで読んでいた文章、そのままでした。
理解したい、共感したいと思って読書をしていました。今、物語の方がわたしに寄り添い、わたしを理解してくれているのを感じます。彼女はわたしと同じ孤独や想いを感じています。彼女はわたしを救おうとし、わたしのために泣いてくれていました。
わたしがその時泣いたのか、彼女が代わりに涙を流してくれたのか覚えていません。頭の中も、心の中も、泣きに泣いてからっぽに洗い流してしまったような気分で、わたしはそのまま眠ってしまいました。
次の朝、わたしは久し振りに学校へ行きました。息苦しく感じていた外の空気が、わたしを受け入れてくれるのを感じました。
教室で、いつの間にかぐっすり眠ってしまい、目を覚ますとすでに放課後で、がらんとした教室の中、別のクラスの友達がわたしを迎えに来てくれていました。
「ホームルームが終わったのにも気が付かなかったよ~」と、二人で笑いました。
これは読書感想文というより、村上春樹さんへのファンレターのようなものです。
そして、ありがとう、笠原メイ。
今回読み返して、彼女とは別の人のノックの音を聞きました。
この物語には、わたしの気付いていない事が、まだまだいっぱいあるみたいです。
また少し大人になったら、読み返してみるつもりです。

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