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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2007/12/28 更新

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井上いつかがおすすめする本です。


フィクション

放浪記

著者:林芙美子

放浪記

 本を読むのは旅なので、外で読むと更に気持ちが良い。
 わたしは色々な場所で本を読みます。公園やお寺の境内。バス停のベンチや喫茶店の窓辺の席。堤防に腰掛けたり、石段の途中に座ったり・・・。
 その日その時、その場所にしかない空気は、次に再びその本を開いた時、かすかに思い出されます。この本を読んでいた場所は、ほこりくさくて騒がしいバス停で、でも何かの拍子にふと、金木犀の香りがしたな。とか、この本のここの場面で、あんまりにも感動したから思わず本から顔を上げて、その時目に映った曇り空の間から差し込む太陽の光はすごくきれいだった。という風に。
「放浪記」を初めて読んだのは高校生の頃、バス通学の間に読んでいました。読んでいる間中、不安に心がさらわれそうな気持ちになりました。わたしがバスを待つように、作中の芙美子も乗り物を待っています。いくつも電車や汽車や船に乗り、何度でも出発します。けれども彼女は、どこかに帰る為に乗り物を待つ事はありません。ただ、どこかへ行く為だけに。この本を読んで、「旅」と「放浪」とはこんなにも違うものなのだ、と知りました。この本は外で読むのには向いていない、とも思いました。これから乗るバスは、本当はどこへ行くんだろう、と不安な気持ちにさせられる。行き先を想像して楽しむ事ができない本です。けれども、ふいに懐かしい場所に出ました。
「放浪の作家が古里と呼んだ町。」
目に見えるよりも先に感じる海の香りや、細い路地の間から光に向かって伸びる石段。その先の古寺。
 彼女が古里と懐かしむ場所と、わたしの今見ている景色は、どれくらい似ているんだろう。急に心強くなっていくのを感じました。
 やっぱり、旅は帰る場所があって、楽しめるものなんですね。

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