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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2008/11/15 更新

いつか読書をする人へ


井上いつかがおすすめする本です。


文庫

日の名残り

著者:カズオ・イシグロ

出版社:早川書房 

日の名残り

 美しいなあ。
 文章の美しさに惹かれて、あっという間に読み終えていました。
 この物語の中の美しさと悲しさは同じもののように感じました。あまりに美しい風景や空の色を見ると悲しくなってしまうように、大きく静かな取り返しのつかない悲しみが、こんなにも美しく描かれている。

 振り返ってももう戻らない、過去の時代の美しさ。
 きらきらしたものを次々と失くし、両手の中に何も残らない人生。自分の歩んできた道が、今まで手放してきたもので輝いているのが見えます。前を向いて生きて行くなんて不可能です。かといって、拾いに行く事もできません。
 わたしには、まだ振り返ってみるほどの過去はありませんが、この物語の主人公のように、過ぎ去った人生をただ眺めて諦める事なんて絶対にできないでしょう。
 来た道に落ちているのがただの石ころでも拾いに戻らずにはいられない性格です。

 本当にもう、主人公のスティーブンスに、何やってたんだっ!と、怒鳴りつけてやりたくなりました。
 わたしがミス・ケントンなら彼を蹴とばしてやるところです。
 わたしは、スティーブンスのように歩いて行くのはいやだな。
 両手にいっぱい抱えて、いじきたなく人生を歩き切りたい、そう決意させてくれた小説です。

 よし、行くぞ。 

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