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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2011/05/08 更新

いつか読書をする人へ


井上いつかがおすすめする本です。


フィクション

人質の朗読会

著者:小川洋子

出版社:中央公論新社

人質の朗読会

 わたしだったら、どんな物語を朗読するだろう。

 遠く、馴染みのない国でゲリラに捕らわれて何カ月もの間人質になっている。
 自分の世界が、今にも壊されてしまいそうな瞬間。
 そんな絶望を少しでも遠ざけることができる物語。自分を照らし、温めるための明かり。わたしの生きていた証となる物語。

 この小説の中で八人の人質と一人の政府軍兵士が語る物語は、どれも遠い過去の、少し風変りな、けれどささやかな出来事です。
 けれども語り手の中でけして風化することのない、とても大切な思い出になっています。
 どの物語にもかすかに、幸福の匂いがします。
 
 その人を形作るような大切な、奇妙な、個人的な物語。

 わたしが今、朗読会をするとしたら。

 妹の部屋の窓に、隣のベランダから飛び移った話か、弟にたくさんのいたずらをした話か、黒手袋の誘拐犯の話か、音楽室のクイズの話か・・・。


 あああ、決められない。

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