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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2011/10/21 更新

いつか読書をする人へ


井上いつかがおすすめする本です。


フィクション

漁港の肉子ちゃん

著者:西加奈子

出版社:幻冬舎

漁港の肉子ちゃん

 ずっと前は、わたしもこんな風に簡単なやり方でただ生きていたんだなあ。

 子どもと一緒に暮らしていると、時折そんな思いが頭に浮かびます。

 大人になるにつれて、生きる事が途方もなく複雑に思えて立ち止まって考えてばかりだったのに、最近はまた、ものすごくシンプルなものしか見えなくなってきました。

 朝起きて、食べて、働いて、夜になったらただ眠る。

 それだけで何の不足もないのだし、わたしにはそれ以外にできることはないのだし。


 小さい頃、家にいた雑種の犬が子犬を産んで、てんでばらばらに動き回るその子らを、鼻先で転がしながらおなかの下に集めていたこと。
 天気がいいだの、花が咲いただの、どうでもいいことで毎日上機嫌で元気を撒き散らし続けているわたしのお母さんのこと。
 
 今の生活は、そんないろんなことが思い出されます。

 あの犬もお母さんも肉子ちゃんもみんな、今のわたしとおんなじだったんだ。


 どんなに抵抗しても明日がくるのを止められはしないのだから、ただ終わるまで真っ直ぐ歩いていればいいんだな、と気持ちがらく~になってきました。

 鼻先でやんちゃな子犬をくんくん追い回しながら、心地良い風にただ目を細める母犬の日々を過ごしています。
 たま~に考えごとでもしてみようか、と思っても、悩む時間も貰えません。


 生きているって、こんなに、大きすぎてどうしようもないことなんですね。


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