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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2012/02/26 更新

いつか読書をする人へ


井上いつかがおすすめする本です。


フィクション

ジェントルマン

著者:山田詠美

出版社:講談社

ジェントルマン

 友達に、似合うよと言われてつい買ってしまった薔薇の香水。
 お店で試した時はとても良い香りだと思ったのに。
 身に付けていると甘過ぎる花の香りに酔ってしまうので長く付けてはいられませんでした。
 ドレッサーの奥に仕舞いこんでしまった、綺麗なガラスの壜。


 この本は、あの香水のようです。


 香りに誘われて、本を開いてしまうとそこは花園の迷宮。
 強い花の香りの陰に、かすかに腐臭のようなものを感じてしまい耐えられなくなってしまいます。


 最初のうちは、コントロールしようとあがき、そのうちそれが無理なことに気付いてからはできるだけ落ちないように、最新の注意を払ってきた、恋というもの。
 この小説に登場するものは皆、頭から真っ逆さまに飛び込んでゆきます。
 おそろしくてたまりません。
 おそるおそる、本の淵からのぞき込みながら、あんな所に落ちてしまうのは絶対に嫌だ、とため息をつきます。


 気分が悪くなってしまうのに、どうしてあの香水をわたしは捨ててしまわないんだろう。


 読んでいると、頭痛がしてくるくらい合わない本なのに、もう三度目の再読を終えようとしています。
 花の香りが、腐臭を隠し持っているように、美しく、おぞましい人間の心。
 知りたくないのに覗かずにはいられません。

 はやく妹に貸してしまって手元から遠ざけてしまわないと、この本の香りでどうにかなってしまいそうです。


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