ダイニングテーブルに置いたままにしていたこの文庫本を夫が見付けて、めずらしいね、どうしたのこれ？と聞いてきました。

　普段お互いの読んでいるものを薦め合ったりしない、知らんふりで各々楽しんでいるのに、わたしがいつも読んでいるものと違うってすぐに分かるんだなあ。

　この本を貸してくれた日の妹が、わたしや息子にやけに優しかったのが気になってちらっと見るだけのつもりで開いてみました。

　ふぅん・・・ふむふむ・・・そうか、なるほど。


　この本に出てくるのは、どれも普通の人達の、誰もが避けることのできない日のお話です。
　わたしがもう、知ってしまっている事もあれば、これから訪れるのに気が付いて立ち竦んでしまうような事もあります。

　読んでいるうちに、いつのまにか息子をぬいぐるみのようにぎゅう、と抱きしめていました。

　ずっと、ずっと、ずっと、今のままでいられないかなあ。

　大人になってからの日々は、子どもの頃に大好きだったお姫様の出てくる物語のような、めでたしめでたし、の終わりどころがわからない。

　ここまでずっと楽しかったし、これからも良い予感がするから、わたしは先に進み続けてしまうでしょう。


　力を入れ過ぎてしまったのか、息子がじたばたと暴れだして、わたしの膝の上から滑り降りてゆきました。やっぱり、彼もぬいぐるみじゃなし、自分の行きたい所へこれからどんどん進んでしまうんだろうな。


　まだ影も見えない、と思っていた『その日』がこの先にあるんだなあ。


　今やこれからの、素敵なこと、美しいもの、全部よく見て憶えておかなくちゃ。


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