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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2012/12/11 更新

いつか読書をする人へ


井上いつかがおすすめする本です。


フィクション

ピース・オブ・ケーキとトゥワイス・トールド・テールズ

著者:金井美恵子

出版社:新潮社

ピース・オブ・ケーキとトゥワイス・トールド・テールズ

 小説というものは、様々な効能を持った薬品であったり、色々な仕掛けを発動させる機械のようなものだったりします。

 この小説は、読み終えるのに大変長い時間がかかりました。

 何度も何度も、繰り返し塗り重ねられてゆく物語。この本のページを開いていると、そこがスクリーンとなってわたし自身のどこに埋もれていたのかわからないようなささやかな、細かな砂粒のような記憶が次から次へと映し出されて、そちらに目を奪われて文字を追うことが出来なくなってしまいます。

 こんな所に引き出しが!

 本棚の裏に隠し階段が!

 こんな所に買い置きの醤油が!(ただのうっかり)


 じぶんでも知らないような扉がばたんばたんとひとりでに開いてしまう。
 この物語には物語の挟間にそんな鍵が差し込まれています。

 ひとからみればがらくたにしか見えないようなものたちだけれど、見つけてみれば、どうして今まで、これなしでいられたのだろうと不思議に感じます。

 ただひとつ少し困ったことが。

 余りに長く、しまい込まれていたせいか、それがこの本の効能なのか、物語に織り込まれている古い記憶たちとわたしのものがごちゃまぜになってしまいました。
 いくつか取り違えて本の中に戻してしまったかもしれません・・・。



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