大学院の卒業製作にポップアップ・トースターを作ろう。そう思い立った著者がトースターを作ろうと奮闘します。
　９ヶ月もの時間をかけ、３０６０キロを移動し、約１５万円もの私財をなげうって…。

　この本はトースターをいちから作るんじゃあありません。ゼロから、原材料から作り出そうというプロジェクトなのです。まず５００円ほどのポップアップ・トースターを分解し、必要な部品を確認。その原材料を調べ、鉄を求めて鉱山へ、プラスチックを作るために油田へ原油をバケツに汲みにいけるか？
　作業方法は著者の手作業のみ。
　最初は製作に関して厳密なルールを敷いていたのに、行き詰まるたびに改正されたり抜け道ができたりするゆるい感じや、期待を裏切らない派手な失敗、地味な挫折。

　人間はたった５００円で売っている、誰にでも扱えるようなトースターに対して、こんなにも無力だったなんて。
　トーマスの七転八倒に笑いながら、人間の世界の発展と、ただの人間との大きな隔たりに疑問を覚えずにはいられません。
　人間にはこんなにも便利なものたちが本当に必要なのかしら。
　今わたしがいる部屋のなかにあるもの、これらすべてがこの世界を削ってまで本当に必要なものだろうか。

　トーマス・トウェイツ君の汗と笑いの９ヶ月！を気楽な気持ちで読もうと思っていました。

　彼はトースターを作りの中で、何を見つけたのでしょうか。
　そして、彼が作り上げたものは何か。

　笑える面白さ、だけじゃない面白い本に出会えました。