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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2017/02/20 更新

いつか読書をする人へ


井上いつかがおすすめする本です。


フィクション

マルの背中

著者:岩瀬成子

出版社:講談社

マルの背中

 これは、今、わたしと同じ十二歳の人間が書いたとしか思えない。
 子どもの頃に初めて岩瀬成子の本を読んだ時の感想です。あの時の衝撃を今まで忘れられていたなんて。

 安心して貼れるレッテルを持っていなかった頃の眼差しで進む物語に、この人はわたしの事を事を知っているのだろうかと思うほど、息苦しくさせられたり、救われたりします。

 母親と子ども。子ども同士の世界。自分達の仲間とは違う、すれ違うさまざまな人たち。
 読んでいると、土のにおい、太陽の熱の痛み、膝の裏を伝う汗の感触などがフラッシュバックとしか言えないくらいの勢いで思い出されます。

 親の存在の大きさ。親の言葉や表情や歩き方、それらをどれくらい見ていたのか。そのひとつが、世界を見失うほどの強い力を持っていたか。

 子どものこころの敏感さを思い出し、自分がその頃よりずいぶん感受性が鈍くなったことに安心しました。

 あんな研ぎ澄まされたままでは、とても生きていられない。

 でも、あまりに鈍くなってしまって、我が子のこころを損なってしまわないように、子どものこころを時々は思い出せるように。

 時々、読み返してみようと思います。

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