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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2017/09/24 更新

いつか読書をする人へ


井上いつかがおすすめする本です。


文庫

わたしの本当の子どもたち

著者:ジョー・ウォルトン

出版社:東京創元社

わたしの本当の子どもたち

 二〇一五年、八十九歳のパトリシアが介護施設にいて、痴ほう症のために大変混乱している場面から、この物語は始まります。
 日によってまったく変わる施設のレイアウト。廊下だったと曲がった先は行き止まりで、急に見覚えのない新しい棟が建っていたりする。そんなはずはない、という言葉を飲み込んで、周囲の看護師たちは、彼女がますます混乱していると感じている。

 確かに、彼女は記憶の混乱があり、痴呆の症状も進んでいます。けれども彼女は自分の子どもたちを忘れたりしない。
 4人の子どもを産んだパトリシア。
 そして、二人の子どもを産み、パートナーの子どもと合わせて3人の子どもを育てたパトリシア。

 パトリシア一人の中に、まったく別の人生が2つ存在していることにパトリシアは気がつくのです。


 パラレルワールド。

 若き日のある選択から、彼女の人生は二つに別れ、それぞれの結果が平行して続いていきます。

 一方の人生は、苦難の多いように見え、もう一方は自分らしくいられたように見えます。
 けれどもどちらの人生にもそれぞれ別の喜びと悲しみがあり、どちらの人生もかけがえのないものであふれています。

 どちらかが真実で、どちらかを失わなければならないのか。
 別々の人生のなかで、彼女を取り巻く世界も、わたしたちが今いる世界とは少しずつ違っていく不気味さ、恐ろしさ。まるで今わたしがいる世界もパトリシアのいくつかの世界のうちのひとつなんじゃないかと思い始めてしまいました。
 途中で何度も本から顔を上げ、世界を見回して確かめながら読み終えました。

 夕食のメニューの選択すら、もし、カレーでなくお好み焼きにしていたら・・・?と、もうひとりの自分に思いをはせてしまいます。

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