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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2018/09/20 更新

いつか読書をする人へ


井上いつかがおすすめする本です。


フィクション

嘘の木

著者:フランシス・ハーディング

出版社:東京創元社

嘘の木

 主人公のフェイスは博物学が好きな十四歳の女の子。
 高名な博物学者の父、サンダリー師を尊敬し、父の助けになりたいと思っています。
 しかし、彼女の願いは叶いません。なぜなら、彼女が女の子だから。

 弟の世話をし、華やかに装い、結婚をして夫に仕える。
 頭蓋骨が男性より小さい女性は、知能において男性より劣っている。そんな十九世紀のイギリスを舞台にこの物語は始まります。

 父親が隠し持っていた嘘の木。暗闇に育ち、嘘を糧に実を結び、食べた者に真実を見せるという不思議な木。
 フェイスはたったひとりでその頭脳を武器に周りの人たちを欺き嘘の木を育て、父の謎を追います。

 女でも男でも、自分の立場や役割に縛られて嘘のない姿をさらすことは、大人になればなおのこと難しくなっていきます。
 縛っているのはよく見ればたやすく引きちぎれる糸なのに。
 フェイスは太い鎖に全身を繋がれるような立場にありながらそれを引きちぎろうともがく。時代や立場が違っても、同じ少女時代、今いる場所から出られっこないと思い込んでいた自分のことを思い出しました。

 女の子は繊細で清らかなんかじゃない。
 フェイスは大人達を震え上がらせるような邪悪なことを思い付ける嫌な人間だ。

 そして、わたしもそう。

 この本を読んで、手足に繋がっていた糸のように細くなっていた鎖にとどめをさしました。
 ぷちっと、それはいともたやすく引きちぎれました。

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