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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2021/02/25 更新

いつか読書をする人へ


井上いつかがおすすめする本です。


フィクション

ウィトゲンシュタインの愛人

著者:デイヴィッド・マークソン

出版社:国書刊行会

ウィトゲンシュタインの愛人

 地球で最後の1人となった女性の手記という形で展開する小説です。

 わたしは、ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインを知らない。アルブレヒト・デューラーはうさぎの絵しか知らないし、フリーダ・カーロもあの素敵な自画像しか知らない。

 彼女は哲学・文学・芸術を綴り続ける。
 長い間1人でさまよい、とっくにおかしくなってしまった頭の中を必死に目を凝らしている。
 彼女が思い出せなくなったささやかなことひとつひとつが、人類の文明の消失の足跡なのだ。彼女はそれをわかっていて、狂ってしまった頭で必死に呼び起こそうとしているのだ。

 苦しみぬいたであろう先の彼女の辿る道は、静かで安らかなように思える。

 いつかわたしも、この先同じ場所へゆく。
 わたしがこの世界を終えた後か、彼女と同じようにこの世界の上でたどり着くのかはわからないけれど。
 わたしがわたしを終えるときに、この本があればこわくない。そう思いました。

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