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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2021/06/03 更新

いつか読書をする人へ


井上いつかがおすすめする本です。


フィクション

檸檬先生

著者:珠川こおり

出版社:講談社

檸檬先生

 共感覚。
 一つの感覚の刺激によって別の知覚が不随意的(無意識的)に引き起こされる」現象。


 私立小中一貫校に通う小学3年生の『私』は、音や数字や人に色を感じる共感覚を持っている。そのために周囲に馴染めず、ひとり訪れた音楽室で檸檬色に見える中学3年生の少女と出会います。彼女も同じ共感覚を持っています。
 『少年』『檸檬先生』と呼び合い、ふたりだけが分かり合える世界を共有してゆきます。


 すべてのページがひんやりと美しいのに、おぞましく恐ろしかった。

 その手足を自由に伸ばし、屈託なく笑うほど、檸檬先生の行き止まりのような絶望を感じてしまってただ苦しかった。
 少年に、こんなにも世界の美しさや可能性を教えてくれるのに、檸檬先生もずっと少年と同じに誰からも理解されない苦しさを抱えています。

 読んでいて色や音や光を感じる、いいえ色々なにおいもした。
 研ぎ澄まされた美しさは恐くて呼吸が苦しくなるほどでした。


 人はみな孤独で、他人とは分かり合えない。ぴったり同じ感覚なんてありえないことです。
 だからこそ、こころを寄せ合うこと、理解しようと、分かってほしいと、もしかしたら、分かり合えたかもと思うこと。
 それがこんなにも貴いのだと思いました。


 

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