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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2009/03/12 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


ノンフィクション

妻と罰

著者:土屋賢二

出版社:文藝春秋

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妻と罰

『散髪してあげるからここに座って!』、奥さんに言われたのは結婚してまもなくの休日のことだった。
“してあげる?座れ?”、誰に向かって言う!とも思ったが、『はい』と返事をして素直に従う私は、さすが日本男児だ。

しかし問題は彼女が元理容師ではなく、全くの素人だということだ。血液型がB型の彼女は、いつも自分の興味のみで突っ走る。A型の私はいつもハラハラさせられる。たぶんTVショッピングか何かで、“ご主人もお子様も大喜び!「らくらく散髪セット」、今なら税込み○○○円!”を見てその気になったのだろう。
『大丈夫だから、任せといて!』と根拠の無い自信を見せる彼女。新婚早々である。散髪ぐらいでオドオドした姿は見せられない。頑張れ日本男子。

彼女は散髪の最中に、『あっ!』と叫んだり、『まぁ、いいか』と呟いたり、『ふふふ』と不気味に笑う。ど、ど、どうなった!と振り向く私の目の前に、『ほらほら、危ないわよ!』とハサミをチラつかせる。
もはや、ここは腹をくくるしかあるまい。駄目だったら坊主頭になればいい、日本男児だもの。

やがて散髪終了、思いがけず良い出来だ。これなら外に出ても恥かしくない。
あれから20年、月に一度の散髪で彼女はすっかりベテランの域に達している。安心して任せられるので、最近は途中で眠ってしまう程だ。すると彼女は、新婚の頃と違って少し冷めた声で私を起こす。振り返ると彼女は怪しく微笑み、ハサミで私の無防備な首筋を叩く。『ほらほら、危ないわよ~』
奥さん、体型が変わったように私への気持ちも変わりました? 私は変わらず、これからも家族のために一生懸命働きますから、日本男児ですから、だからお願い・・・。

『妻と罰』は、お茶の水女子大学で哲学を教える土屋教授のエッセイ集です。笑えて泣けるエッセイは数多くあれど、これほど人生の指針となるものはありません(個人差はあります)。特に奥さんとのやり取りは秀逸です(あくまでも個人の感想です)。
そして土屋教授の文章は自分でも書けそうで、つい真似をしてしまいました。でも止めたほうがいいですよ、癖になるから。

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