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本さえあれば、日日平安

本さえあれば、日日平安

長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2009/04/10 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

お父さんのバックドロップ

著者:中島らも

出版社:集英社

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お父さんのバックドロップ

幼い頃の長男は、いつも“お母さん、お母さん”と奥さんにまとわりついていました。長女の方は“お父さん、お父さん”だったため余計にそう感じたのかも知れませんが、「男の子なのに・・・」と少し寂しく思っていました。

でもある日を境に、私と遊ぶようになりました。それは、線路を自由に組み合わせて模型の電車を走らせる玩具を、知り合いから譲ってもらった日です。
ずいぶん以前から発売されている玩具ですが、私自身はそれで遊んだ記憶はありません。だからかも知れませんが、その日は子どもそっちのけで私が夢中になりました。山や谷を想像して高低をつけ、上下で交差させ、同時に2台、3台と走らせては悦に入っていました。

そんな大人気ない私を長男は、意外にも『お父さんすごい!』と尊敬の眼差しで見てくれていました。幼い子どもからすれば複雑なものを簡単に、そして楽しそうに作り上げていく姿は驚きだったのかも知れません。

次の日、自分1人でやろうとして上手くいかなかったらしく、『お父さん今度はいつ休み?』としきりと奥さんに聞いたそうです。その後は2人で、休みの度に夢中で遊びました。一緒に遊ぶ時間が増えると“お母さん、お母さん”は、自然に“お父さん、お父さん”に変わっていきました。
休日になると男2人で部屋にこもって仲良く遊ぶ姿を見て、弟に父親を独占された長女はむくれていました。それでも『男の子はお父さんに遊んでもらって、男の子らしくなるんよ。』と奥さんがフォローしてくれたお陰で、娘からも嫌われずにすみました。
子どもからも奥さんからも好かれ、尊敬されていた遠い過去の思い出ですが・・・。

下田くんのお父さんは悪役プロレスラー。髪は金髪、目と口の周りに真っ赤なくまどり、緑色の霧を吐き、鎖がまを振り回しての反則負けがいつものパターン。
でも学生時代はレスリングでオリンピックにも出場し、今だって誰にも負けないぐらいのトレーニングを重ねている。それは強くなるためでもあるが、ケガをして会社や家族に迷惑をかけないため。単純ではない大人の事情だ。
でも下田くんは、もっとシビアに別の視点から父親を見ていた。

『お父さんは、その本当の勝ち負けのある世界に、ずっといるのがこわかったんだ。だからみどり色の霧をふいていれば、どっちが強いかよくわからない世界へにげたんだ。だから、尊敬できない。』

息子からの『尊敬できない』の言葉に、彼は重大な決断をする。勝てる見込みが皆無の相手、黒人空手家「クマ殺しのカーマン」との対戦。再起不能どころか死をも覚悟した闘いに挑む姿を通して、自分の想いを伝えようとする父親。
試合前に彼は叫ぶ、『きょう、おれがここで戦うのは、たった三人の人間のためだ。その三人さえおれのことをわすれずにいてくれたら、それでいい。そのために戦う。それはおれ自身と、おれのカアちゃんと、おれのムスコだ。』

小学生向けの雑誌に書かれた小説ですが、侮れません。映画にもなっていますので、是非観てください。最後にリングに残り高々と腕を振り上げている男は、いつも頑張っているお父さん、あなたではありませんか・・・。
泣けます。

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