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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
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本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2009/05/16 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
文庫
家族力
著者:山本一力
出版社:文藝春秋
直木賞作家・山本一力による「家族」にまつわるエッセイ集である本書は、ヘタレな父親である私にとって大変耳の痛い話から始まる。
『男性に男としての、父親の親父としての存在感が希薄になっていることが、多くの事柄を歪めている。その結果、家族がひとつにまとまりにくくなっていると思う。』
著者が理想としているのは昭和の匂いのする、ひと昔前の家族のあり方のようだ。平成の世にこれを貫き通すのは難しいのではと感じながらも、“なるほど”と思うことは多い。家族が強い絆でまとまるには、強いリーダーが必要なことは理解できる。 昭和一桁生まれの両親に育てられた私もまた、そのような家庭で、そんな父親を見て育っているからである。頑固でワンマンな親父を疎ましく思う反面、男として尊敬と憧れを感じていたのだ。
しかし、自分がその様な親に育てられたからといって、同じタイプの父親になるとは限らない。私には全く威厳が無い。自分の父親のようにも、ましてや著者が理想とする頼もしく立派な父親には到底なれそうもない。誰に言うのでもなく“ごめんなさい”と呟きながら読み進めていると、ある一節に救いが見えた。
『母親がどのような言葉で、父親のことをこどもに伝えるか。こどもが親父像を結ぶにおいて母親が言ってきたことは決定的な要素になる。』
著者が自らの体験で得たことである。父親の記憶がほとんどない著者は、母親の話から家長としてどっしり構えている父親像を思い描いたと言う。
思い出すことがある。うちの奥さんは、子どもたちに私のことを悪く言うことは無い。仕事の大変さを説き、少ない(?)長所を褒め、「お父さんは特別だから」と子どもたちに我慢させて、私のことを優先する。幼い子どもから何時も羨ましがられていた。
奥さんがその様に接してくれたお陰で、私も父親だからとことさら威張る必要がなかった。今更ながら、何てよくできた奥さんなのだと感じる。頼りない私を家長として立ててくれる彼女には、頭が下がる思いがする。
本書は『告白的家族論』とあるように、著者の過去が赤裸々に書かれている。離婚した両親について、自身の三度の結婚と二億円の負債、借金を返すための作家活動、家族に支えられた直木賞受賞、興味深いエピソードが続く。
なかでも直木賞受賞に至る経緯を綴られた『私のプロジェクト直木賞』では、受賞の記者会見で言われた『家内に感謝します。』の言葉の重みを感じる。
借金を返す身にとっては、「途中で投げ出すことも悩むことすらも贅沢だ」と言われるくだりには、いかに壮絶な状況だったのかが窺える。そして、何度も挫けそうになる著者を唯一励まし、「完全なる信頼」を持ち続けた奥さんへの感謝の気持ちが、文章に溢れている。
16歳も年下の奥さんから、“「決めたらぶれない」ことを教わった”という。本当に強かったのは、奥さんの方なのだ。
そしてまた思い出す。私を立て褒めてくれる奥さんの言動は、実は子どもの前だけという限定付だった。夫婦二人きりだと、辛辣で手厳しい言葉を遠慮なく投げかけてくる。「頭が下がる」のは思いではなく、実際に・・・下げている。正座してうな垂れている姿は、子どもには見せられない。
平成の世、強いリーダーは父親とは限らない、哀しいけど。