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本さえあれば、日日平安

本さえあれば、日日平安

長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2009/12/16 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


フィクション

田んぼのいのち

著者:文・立松和平絵・横松桃子

出版社:くもん出版

田んぼのいのち

来春高校を卒業する長女は、それまでに車の免許を取るつもりらしい。卒業後は進学を選ばず、来年の今頃は社会に出て働いているだろう彼女にとって確かに必要なものだと思うが、心配性の私は不安で仕方がない。私に似て要領が悪く不器用な娘だ。車の運転もだが、厳しい実社会で上手くやっていけるのだろうか・・・。

親の心配をよそに娘は、『お父さんでも車の運転が出来るのなら私にも出来る。』、『お父さんが社会人として勤まるなら、私にも勤まる。』と無邪気に笑う。何でも『お父さんが出来ることは私にも出来る。』と妙な自信を持っている。『私はお父さんに似ているから』というのが、その理由らしい。

年頃の娘から嫌われていないだけマシだが、人として同じレベルと思われているのは、何だか引っかかる。ちなみにお母さんはと聞くと、『乗り越えられない大きな壁で、何一つ勝つことが出来ない存在』とのことだ。同じ親でも同性と異性では、存在意義が違うようだ。

確かに私にとっては父親の存在がそうだ。母親は亡くなり、私たち三人の子どもは皆出て行ったが、今も実家で一人黙々と米を作っている父親の姿が思い浮かぶ。
いまだ”とてもかなわない”存在だ。

お米を作っている賢治さんは七十回目の誕生日を迎えました。村から一人去り、二人去り、とうとう賢治さん一人になってしまいました。でも賢治さんは負けるつもりはありません。
米づくりは種もみ消毒からはじまります。苗床にもみをまき、稲の苗を育てます。その間に水路の掃除、田を耕して代(しろ)かきをします。
水門をあけ水を引き入れ、いよいよ田植えです。太陽の香りをふくんだ土に、田植え機の鉄の爪が、稲の苗を植えていきます。水に沈みかかった頼りない稲に、「今年も豊作でありますように」と手をあわせて祈ります。五十年間米をつくっている賢治さんも、五十回しかつくっていなくて、いつも一年生の気分です。

賢治さんに父親の姿が重なる。私が社会人になる時、父親から世の中のことを教えてもらった記憶はない。でも感じていた。『私はこの人の子どもだ。だから大丈夫だ。』
親のうしろ姿を見て子どもは育つ。よく言われる言葉には真実がある。そう思えるのも自分が親になったからに違いない。

娘の無邪気な笑顔も、本当は強がりに過ぎないことは知っている。十八歳になったばかりの娘が、実社会という未知の世界に不安を感じていないはずがない。逃げ出したい気持ちを打ち消そうと、ワザと明るく振舞っているのだ。
だから娘に同じレベルと思われてもかまわない。だいたいが尊敬してもらえるほど立派な親でも、目標になるほど大きな存在でも無いのだ。
『お父さんが出来ることは私にも出来る。』と感じて、気分が楽になり勇気が出るのなら、それでいいと思っている。

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