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本さえあれば、日日平安

本さえあれば、日日平安

長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2010/01/08 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


フィクション

YES - お父さんにラブソング

著者:川上健一

出版社:PHP研究所

YES - お父さんにラブソング

私は影が薄く存在感が無いので、帰宅しても気付かれないことが多い。特に、家族がTVでお笑い番組を見ている時に帰ると、なかなか気付いてもらえない。仕方が無いので部屋の隅で体育座りをして待つことにする。

CMになってやっと娘が気付いてくれた。
「あっ、お父さんが帰っとるー!」
娘の声で振り返った奥さんが続けて言う。
「あー、今日は早番じゃったねー。ごめん、忘れとった。どーしょー、お父さんのぶんは何も用意しとらんのよー。」
やたらと明るい声で食事の支度が出来てないことを告げられる。少し哀しい。
確かに済まなそうにしているが、そうかと言って直ぐに作ってくれる様子は無い。何故なら彼女のお気に入りのお笑いコンビ、ロッチの出番がまだなのだ。文字通り彼女の重い腰は上がりそうにない。

仕方が無いので自分で台所に立つ。息子が様子を見に来る。手伝ってくれるのかと期待したが、「がんばれー!」の一言を残し、スナック菓子を持ってTVの前に戻った。
私が作れるのはインスタントラーメンだけだ。でも何か具材を加えることぐらいは出来る。冷蔵庫を開けてみる。優しい食材たちが私に微笑みかける。冷蔵庫で冷やされているが、何て温かいヤツらなのだ。

ロッチの出番が終わり、奥さんが振り返る。
「あっ、お父さん美味しそうじゃねー、私も食べよー。」
えっ、あなたは既に召し上がったのでは?
ますます腰が重くなりはしませんか。

本当のことを言うと、実は家族に気付かれないように「そーっ」と帰宅している。確かに高尚な番組を見ている訳ではなく、ガハガハ笑っているだけだ。でも、楽しそうにしている家族を後ろからじっと見ているのが、何となく好きなのだ。私が居なくても多分こんな雰囲気なのだろうと安心でき、幸せな気分になれるのだ。

「あなたが家族を感じるときは、いつですか?」

本書には、心がほっこり温まる67のショートストーリーが収録されている。いずれも日常の何気ない出来事や会話が綴られているだけだ。でも、例え口に出さなくてもお互いを思いやり、応援し、応援され、支えあっている家族の姿がある。また意外な一面を見せ、他の家族を驚かせるお父さん、お母さん、子どもたちがいる。何度読んでもクスッと笑え、ホロリと泣けてくる話しがある。何時も側に置いて読み返したい一冊だ。一緒にいるだけで心が穏やかになれる、まるで家族のようだ。

「家の者の笑い声はいいもんだな。一番の宝物だねえ。あれだなあ、家の者の笑いは、男の責任かもしれないねえ。」 
~ 『不思議な釣り』より ~

何はともあれ、家族みんなが笑っているのである。とりあえず、こんな私でも少しは責任を果たせているのだろう。

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