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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2010/02/04 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

きみが見つける物語 恋愛編

著者:角川文庫編集部・編

出版社:角川書店

きみが見つける物語 恋愛編

中学生の長男がため息をついている。「何か悩み事か?」と尋ねると原因は女子とのこと。
おっ、ついに恋の季節到来か!興味津々で話を聞いてみると、女子にトキメキを感じてしまったのは、わが家の長男ではなく友だちの方だった。う~ん、残念。

彼にしたらゲームや釣り、部活の話で盛り上がりたいのに、最近その友だちが気になっている女子の話題しか振ってこないので、面白くないらしい。
彼らの友情が壊れたらいけないので、「お前たちの年頃なら女子に興味が向くのは正常なことでお父さんにも覚えがある。そう、あれは中2の夏・・・」と、熱く語り始めたら迷惑そうに部屋を出て行ってしまった。

確かに彼らの年頃は大変だ。心身ともに著しく成長しているが、どうもバランスが悪い。その成長には個人差があるので、急に友人たちが大人びて見えてくる。自分だけが仲間はずれで置いて行かれた感じがしてくる。焦る、ムカつく、イライラする。
何でもないことに突然はしゃいでみたり、急に落ち込んだりと気分が目まぐるしく変わる。自分をコントロールできずに持て余す。
そんな時、追い討ちをかける様に女子が気になり始める。もちろん、これまで通り男友達ともつるんで居たいが、女子とも話がしたい。いかんせん勉強どころではない、嵐のような毎日だ。

本書は、今をときめく作家たちによる短編小説集「十代のための新名作」シリーズの1冊。
このシリーズに収録されているのは、読書好きならば一度は読んだことがある作家や作品ばかりだ。むしろ普段は本を読まない中・高生を対象に編集されたものだと言える。

梨屋アリエ「あおぞらフレーク」 ~ 『プラネタリウム』講談社
乙一「しあわせは子猫のかたち」 ~ 『失はれる物語』角川文庫
山田悠介「黄泉の階段」 ~ 『8.1 Horror Land 』角川文庫
有川 浩「植物図鑑」 ~ 『植物図鑑』ケイタイ小説サイト(2008年9月時点)
東野圭吾「小さな故意の物語」 ~ 『犯人のいない殺人の夜』光文社文庫

どの作品も、その年頃特有の屈折した感情、上手くは伝えられない気持ちが、“しっくりくる”言葉で綴られている。物語の主人公と気持ちを共有でき、この想いは自分独りのものでは無かったという安心感を味わえ、勇気づけられる。
もちろん物語としての面白さは折り紙つきだ。不思議な恋バナ、ちょっぴり怖いけど泣ける恋、切ない恋心が絡むミステリー・・・、衝撃の結末に驚き、その後で静かな感動が訪れる。
恋愛の形が人の数だけあるように物語の設定も様々だ。それぞれの作家が紡ぎだす、個性ある世界を堪能できる。

今まであまり小説を読んでいなかった貴方も、本書及びこのシリーズで気に入った作家・作品を手掛りに、次に、次にと読書の輪を広げていっては如何だろうか。
まさしく今度は、『きみが見つける』物語だ。

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