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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2010/05/08 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
文庫
スコーレNO.4
著者:宮下奈都
出版社:光文社
ゾクゾクして鳥肌が立つ。そんな一節に出会う。この本を選んで良かったと思う瞬間だ。
『並べ方は靴のほうから知らせてくれた。』
主人公・津川麻子が商社に就職し、最初に派遣された靴屋での出来事。スタッフの意図がディスプレイに反映されていないと思い、意を決して店長に向かって口を開く。
「並べ方を変えてみてはどうかと思うんです。」
麻子の実家は古道具屋、「決して広くはないスペースにたくさんの品物が並んでいるのに、そのどれもが居場所を持っている。ひとつとして間違った場所に置かれていないのがわかる」。
彼女は幼い頃から店や倉庫に入り浸り、たくさんの時間を過ごし、“いいもの”を見詰めてきた。だから、現状に違和感を持ちつつやり過ごす・・・、ことは出来なかったのだ。
「ディスプレイのことばかり考えた。結論はひとつだった。怖がらないこと。それは、マルツ商会の店内を頭の中で何度も何度も歩きまわって得た感触だった。父は怖がっていない。店に好きなものだけを並べることも、それを突き詰めていくことも。怖がっていたら、あの店はできない。そう思い至ったときに、靴のディスプレイが浮かんだ。」
麻子は自分を信じ、並びを変えていく。「そこしかない、という置き場所がどんどん見えてくる。」、完成したディスプレイに、働き出して初めての達成感を得る。
出勤してきた同僚たちは目を輝かせ、店長は大きくうなずく。
もちろん、強く惹かれるところは人によって様々だと思う。「そこじゃ無いだろう。」と言われるかも知れない。でも私は、このシーンが一番のお気に入りだ。
解説の北上次郎氏は言う。「一人の女性の成長を丁寧に、静かに、力強く描く小説である。同時に、家族小説であり、姉妹小説であり、青春小説であり、職場小説であり、恋愛小説である。」、そして「的確な描写と美しい文章でたっぷりと読ませる」小説であると。
本当に多彩な顔を持つ、読みどころ満載の小説だと思う。男性であろうと女性であろうと、家庭や職場での立場が何であろうと、年齢も関係ない。全ての読者が、中学、高校、大学、就職を通して4つのスコーレ(学校)と出会い、少女から女性へと変わっていく麻子のどこかに自分自身の姿を見つけ、麻子とともに悩み、麻子とともに成長していくのである。
この本は今、全国の書店で話題になっている。リアル書店に勤め、日々本を手にして、本のことを考え、本を見詰めてきた多くの書店員が注目している。
店に好きなものだけを並べること、それを突き詰めていくこと。怖がっていたら、自分の店はできない。
そう思って仕事をしている書店員が自信をもって選んだのが、この一冊なのだ。