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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2011/07/17 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
文庫
あなたに褒められたくて
著者:高倉健
出版社:集英社
児玉憲宗・著『尾道坂道書店事件簿』に、このようなエピソードがある。
― ある日、文芸書棚を、店長が腕組をして眺めている。気になって、そばに寄り「何か・・・」と尋ねても、うーんと唸るだけ。随分と長い間待たされ、やがて店長はようやく口を開く。「棚が、かすんでいる・・・」。なんだか『哭きの竜』(能條純一/竹書房)の主人公みたいなことを呟いた。「ど、どういう意味ですか」と聞くと、「棚に魂が感じられないんだよ」と言って、静かに立ち去っていった。 ―
著者が若い頃の体験談、商品管理にうるさい職人の様な店長とのやり取りだ。私も同じ店長のもとで働き、同じようなことを言われたので、この感じはよく分る。
当時、私が担当していた人文書の棚。店の一番奥にあり目立たないが、存在感があった。この棚が好きだと言われ、通われているお客様がいた。でも入社2年目、初めて担当として持つには“重たい”棚だった。
兎に角、本に触って表紙を見て、もちろん読んで覚える様に言われた。何が売れているかは、スリップ(本に挟まっている二つ折りの短冊)を整理しながら頭に入れた。そして現在の様にPCでの管理ではない。本を調べるのは特大の総目録、売れ行きデーターはノートに手書きだった。
仕事を、本を体で覚えるには、その方が良かったのかも知れない。
担当になると棚を管理しなければならない。仕入れて店に出す本、売れ行きを考え返品にまわす本。自分で判断して返品として抜き出した本が、次の日には棚に戻っているということが続いた。誰の仕業かすぐ分った。新米ではあるが現担当者なのだ。他の人に棚をつつかれるのは面白くない。たとえ店長でも・・・
ずっと見ていると、棚の雰囲気が変わっていることに気付いた。何が変わっているのだろう。端からゆっくり見ていく。棚の中の本の位置が違うのだ。この本の隣にはこの本、その隣にあるのは、そしてその隣は・・・。棚が違って見える。隣同士の本が何かしら繋がっている。
そう言えば面陳(棚の中で表紙を見せて展示している本)も変わっている。短期間での売れ方で判断しているのではないのだ。ましてや単に入荷冊数の多い、少ないで選んでいるのではないのだ。
私が返品として抜き出した本も面陳されていた。センスの違いを見せつけられた。
悔しいけど、断然良くなっている。書店員としてキャリアが違うのだ。今は仕方がない。でもこの人を唸らせるような棚を作ってみたい。この人の口から、シビれるような褒め言葉を引き出してみたい。
『あなたに褒められたくて』
でも本当にシビれるのは言葉ではない。誰から褒められるかが重要なのだ。
最近になって、そして店長になって、やっと分った。