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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2012/07/08 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

陽だまりの彼女

著者:越谷オサム

出版社:新潮社

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陽だまりの彼女

娘の名前は私が付けた。これしかないと決めていた名前があった。ずいぶん前から思い続けていた。結婚して娘が生まれたら絶対この名前にしようと。
幸せなことに第一子は女の子だった。名づけのため、お互いの両親を交えて家族会議の場が設けられた。普段自己主張をしない私が珍しく意見を言い、しかも決して譲らないので奥さんは訝しんだ。
「もしかして元カノの名前?」

もちろん、そんな不純な気持からではない。それは高校生の時に読んでいたマンガに登場する女の子の名前だ。別冊マーガレットに‘77年から‘80年まで連載されていた、河あきらの『いらかの波』という少女マンガだ。
高校生の時に少女マンガを読んでいた事実はさらっと流し、彼女のように聡明で元気のいい女の子になって欲しいからと力説して皆に納得してもらった。
実際はその名前を、お気に入りの女子の名前を、主人公の男子のように「呼び捨てにしてみたい!」という不純な動機が根底にあったのだ。

奥さんの名前は怖くて呼び捨てにできない。結婚して23年たった今でも「さん」付けだ。娘なら遠慮はいらない。女の子の名前を呼び捨てにできると思うだけでワクワクする。試しに名前を呼んでみる。「なに?」と振り向く娘。ほら、かわいい。
呼び捨てにできる女の子が、こんな身近にいてくれるなんて素敵じゃないか。

『陽だまりの彼女』 越谷オサム 新潮文庫
 
広告代理店に勤める浩介は、取引先で十年ぶりに幼馴染の真緒と再会する。彼女は中学一年の時に転校してきた、小柄で愛らしく素直な性格の女子だ。
だが、あまりにも自分に素直すぎる彼女は周囲と協力できない「気まぐれな子」と映り、漢字の小テストで露わになった「学年有数のバカ」と評される学力のなさで、途端にイジメられっ子となる。
ある日陰湿ないじめにあっていた真緒を見た浩介は、耐え切れなくなり彼女をかばう。その日から浩介もクラスで浮いた存在となるが、唯一の話し相手になった真緒と親交を深め恋心を抱くようになる。
中学三年になってから今度は浩介が転校し二人の仲はそれ以降途切れてしまったが、社会人になり再会。しかも驚くべきことに、彼女は仕事のできるおしゃれなモテ系の女子に変身していた。彼女ができる女子になったのは、浩介に会いたいと思う気持ちからだった。東京の大学に進むと言っていた浩介と再会するため、涙ぐましい努力をしたのだ。

「女子が男子に読んでほしい恋愛小説NO.1」という帯のコピー、また西島大介のカバーイラストからも少女コミックや韓流ドラマの展開を連想させ、手にすることをためらう男子もいるだろう。

だが、それは大変もったいない。ぜひ読むべきだと思う。確かにくすぐったくなる様な会話やバカップルと思われる行動が満載だ。それでも二人の世界を見るのは嫌じゃなかった。読んでいるこちらが恥ずかしくなるぐらいこれでもかとベタベタしているのに、何故かさわやかだった。二人の関係は微笑ましくて懐かしく、陽だまりのように温かい。
再会後、お互い社会人として名字で呼び合っていた二人が、中学時代のように名前で呼び合う様になる場面は、もうすぐ半世紀少年になろうとするオジサンの胸をキュンキュンさせた。

結末に対して色々な感じ方があって当然だ。その為に何度でも読み返せるのだ。次に読んだとき、この結末をどのように感じるだろう。確かめたくてまた読んでしまう。
真緒と浩介がお互いの名前を何度も何度も呼び合い、お互いの存在を確かめ合ったように、何度でも読みたくなるのだ。

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