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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


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本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2012/07/29 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

ビア・ボーイ

著者:吉村喜彦

出版社:PHP研究所

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ビア・ボーイ

息子がまだ赤ちゃんと呼ばれていた頃。初めて言葉らしいものを発するのを聞いて喜んだが、それは少し変わっていた。多くの子どもがそうであるように、最も身近な人である母親の口真似から始まったであろう彼の最初の一言は、「あちー」だった。

今と同じような季節。息子を抱きかかえた奥さんが、「暑い、暑い」と連呼していたのを聞き覚えたのに違いない。奥さんの言い方を文字にすると、少々やさぐれた感じの「あぢぃ~」だ。
一方息子の「あちー」はとても可愛く、爽やかな風のように暑さにイライラする心を癒してくれたのを覚えている。
もっとも何をしても何をしゃべっても可愛い年頃だが、更に可愛らしいと感じたのは歩くようになってからだ。ある日、缶ビールを大事そうに両手で抱えトコトコとやってきては一言、「と~と、び~」。訳すと「おとうさん、ビールをど~ぞ」。
「び~」のところが最高だ。膝をちょこんと曲げて少し首を傾け、ニコッと微笑むのだ。

でも、ふと疑問が湧いた。私はビールを飲まない。ましてや持って来るように要求したことは一度も無い。そーか、いつもは「か~か、び~」なのだ。
奥さんは息子にこんな芸を仕込み、その可愛らしい姿に目を細めていたのだ。そして缶ビールを一気飲みし、「プハァ~、うんめぇ~」と目を細めていたのに違いない。
可愛い息子も美味いビールも、両方を堪能できる奥さんが羨ましい。だがそれこそが、暑い中で家事と育児に追われている奥さんの元気の素だったのだ。彼女は自分しか飲まない缶ビールと、自分だけの可愛い「ビア・ボーイ」を支えに、その年の暑い夏を乗り切ったのだ。

大学を出たオレ、上杉朗はスターライトというビールやウイスキーを製造販売する会社の宣伝部で働いている。スターライトは莫大な広告費で酒を売ってきた会社。広告クリエイティブの質は異様に高く、毎年広告賞を総なめにしている。
好き勝手にしていた仕事が何故か妙に評価され、オレは広告賞ももらった。しかし元来お調子者の悪い癖が出て、「仕事はできるげど、あいつはちょっと素行がなあ」ということで、花の東京の宣伝部から、売上げ最低の地方支店・営業部に飛ばされた。
赴任先の地方支店とは広島、そして担当地域は備後地方の中心地・福浦(これはわが街、福山でしょう!)。

「営業でトップの成績をとれ。そうしたら宣伝部に戻ってこられる」、尊敬する先輩の言葉を支えに広島に向かったオレを待っていたのは、小狡い上司とだらけた空気。初めての営業に対するとまどい、そして営業をどこか軽く考えていたために起こした赴任早々の大失態。
ここで結果を出さねば本社に帰れない。アクの強い取引先に体当たりで、その懐に飛び込んでいく。

上杉をそう変えたのは、福浦一の業務用酒販店社長・黒岩の言葉。
「『大人になる』ちゅうのは『子どもよりもずっと素直になる。真っ直ぐに生きる』ちゅうことじゃ。あれこれねじ曲げて考えんようになることよ。それを勘違いして、くだらん小細工したり、ものごとを複雑にするのを『大人になる』いうことと勘違いしとる人間が多い」

備後弁で語られる「ビタースイート」な人生訓が、胸に迫る。福浦という名の福山を舞台に繰り広げられる、爽やかでほろ苦い営業成長物語。ビジネスの現場での立ち振る舞いがリアルに学べる1冊。
ヘタな自己啓発本より「ビア・ボーイ」。暑い日は、より熱い本に限る。さぁ、グッと一気読み!

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