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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


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本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2012/12/02 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


コミック

ペコロスの母に会いに行く

著者:岡野雄一

出版社:西日本新聞社

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ペコロスの母に会いに行く

62歳の漫画家が描く、認知症の母との可笑しくも切ない日々。岡野雄一・著「ペコロスの母に会いに行く」を読み、思い出す。

私の母は口数が少なく、穏やかな女性だった。控えめで、とても辛抱強かった。農家の長男である父のもとに嫁いだ時、母は21歳だった。ちょうど現在のわが娘と同い年だったことに驚くが、50年以上も前なので珍しいことではなかったのだろう。ましてや農家、若くて丈夫な働き手として期待されての嫁入りだったのだと思う。

当時実家では、地域の特産品である備後畳表に使われる「い草」を栽培していた。い草の刈り入れは梅雨明けの暑い頃だという。私は7月生まれ。大きなお腹を抱え、出産間際まで働いていたのだと母から聞かされたことがある。
家ではただひたすら夫である父に従い、曾祖母、祖父母、父の弟である叔父、そして私たち三人の子どもの面倒を見なければいけない母の毎日は、決して楽なものではなかったと思う。それでも家族全員の母親役を務め、愚痴も言わずただ黙々と働いていた。

私はそんな母に似ていると言われていた。次男坊なのにヤンチャなところがなく、目立たない、大人しい子どもだったからだ。
子どもの世界は残酷なところがあるので、大人しいという理由だけでからかわれ、嫌な思いをすることも多かった。そんな時は何も言い返さず我慢した。感情を表に出さず、すべてお腹の中に溜め込んでいた。母譲りの性格がそうさせていたのだと思う。

でも思春期になるとそんな自分が嫌で仕方なかった。母に似て控え目で、何でも我慢してしまう性格を恨んでいた。このまま母のように、ただ耐えるだけの人生を歩むのではないかと感じていたからだ。
そして、いつの頃からか母を避けるようになっていた。大人しくて人見知りなのに、大学進学という大義名分を得て迷わず家を出たのは、母と距離を取りたい気持ちがあったのだと思う。

成人して社会人となっても、仕事やプライベートで自分の気持ちを上手く表現できず悩んでいた。大人として、男として、自分の意見を言い堂々と振る舞えないことを自覚するたび、母譲りの性格のせいにして諦めていた。
その日も妻に対し、自分の不甲斐無さを後ろ向きな言い訳で取り繕っていた。妻は私の目を見て噛んで含めるように静かに言った。

あなたはお母さんの良いところを引き継いでいます。良いところだけを引き継いでいます。それはとても幸せなこと。お母さんに感謝の気持ちを言葉にして伝えたことがある?

遅かった。何も伝えられないままだった。次の日、母は逝ってしまった。

家族や友人、そして仕事仲間も、周りの人たちが私を信頼してくれているとしたら、それは私の中の母に似ている部分を認めてくれているからに違いない。母譲りの気質が、私という人間を支えてくれているのだ。
紛れもなく私は、母によって生かされてきたのだ。

感謝の言葉ひとつも伝えられなかった親不孝な私が出来るのは、こうして母を思い出すことだけだ。いくら悔やんでも、それしか出来ない。
こんな私を母は許してくれるだろうか。

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