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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
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本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2013/04/15 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
文庫
「心が凹んだとき」に読む本
著者:心屋仁之助
出版社:三笠書房
公休日の店長に代わって店を任されていたN君は緊張していた。どうかこのまま何事も起こらず、無事に閉店の時間が迎えられますように・・・と祈っていた。
スタッフから異変を告げられたのは昼過ぎだった。「店の中に犬が入って来ています。どうにかしてください!」
イベント平台の下に出来た日陰に悠然と寝そべっていたのは結構大きな犬だった。首輪をしていないので野良犬のようだ。外の暑さに耐えかねて涼を求めて入って来たのは一目瞭然だ。
N君は犬が苦手なわけではない。しかし人から注目を浴びるのは大の苦手だ。その時店内に居たお客様とスタッフ全員の視線を背中に感じ、嫌でも緊張が高まっていった。とにかく早く外に出さなければ・・・
「ほれほれ、入ったらいけんよ~」、刺激しないよう犬に向かって猫なで声を出した。
人を恐れないので野良犬と言うより捨て犬か迷い犬なのか、それに案外と素直に従ってくれ一安心。でも勤務中なので遠くまでは行けず、駐車場の外まで連れ出しては店に戻った。
しかし、その犬はまた入って来た。その都度呼ばれ、外に出す。その繰り返しだった。見かねた後輩のF君が、「僕がやります。」と対応を買って出た。
彼は棒を手にして大きな声で犬を脅かし追い出した。その様子を見て眉をひそめるお客様もいたが、その犬は二度と戻ってくることはなかった。
その後休憩室では、女子スタッフの間で2人の対応の違いが話題になった。
最初はN君の方の評判が良かった。「何があっても怒らんね。人柄が出とるよね~」。一方のF君には、「可哀想に、あそこまで乱暴にせんでもええのにね~」と辛口の評価だった。
大人しくて頼りないけど優しいN君、頑張り屋だけど熱くなり過ぎるところのあるF君。そんな風に落ち着きかけた2人の評価はある一言でひっくり返った。
「N君の対応はダメ。時間ばっかりとられて仕事にならなかった。」、「F君が乱暴にしたのはワザとだと思う。その後は犬も戻って来ないで普通に仕事も出来た。結局はお客様にもスタッフにも、それ以上迷惑をかけずに済んだ。」
人柄は良くても仕事に関しては残念なN君、やり方はどうあれ、ちゃんと結果を出すF君と評価は変わっていった。
女子スタッフの評価を漏れ聞いたN君は凹んだ。たかが犬の対応一つで、とは言い切れない。一事が万事なのだ。自分が良かれと思ってすることは、いつも何処かズレている。自分がしているのは仕事なのだ。結果を出してナンボの世界なのだ。どんな手を使っても、結果が全てなのだ。
それに「N君のは本当の優しさとは違う」とも言われていたと聞き、更に落ち込んだ。
でも人を落ち込ませるのが言葉なら、人を救うのも言葉だ。
N君を救ったのは、「言いたい人には言わせておけばいいよ。気にしないの。」という、後にN君の奥さんとなる女性からの一言だった。
心屋仁之助も言っている。「わたしがそうしたいと思った。」、これが一番大切なのだ。
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