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本さえあれば、日日平安

本さえあれば、日日平安

長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2013/07/08 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

ひろいもの

著者:山本甲士

出版社:小学館

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ひろいもの

「初めて自分で買ったCDは何ですか?」、FMラジオから聴こえてきたのは、女性DJからゲストのミュージシャンへ向けた質問。今やその若いミュージシャンの親世代になろうとする私は、CDをレコードに置き換えてその質問に答える。
吉田拓郎の「明日に向かって走れ」、中学2年生だった。

だが、そう答えると胸の奥のほうがチクッと痛むのは何故だ。
ある曲が頭に浮かぶ。もしかして、いやそんなはずは無い。でもそれが本当なら・・・、確かめるためウィキペディアで調べてみた。「明日に向かって走れ」は1976年リリース。もしかしてと思わせる一曲は果たしてその前年、1975年だった。
胸の痛みは、格好つけて自ら記憶を変えようとしていたからだ。本当はこちらが先だったのだ。双子の女性アイドル、ザ・リリーズが歌う「好きよキャプテン」。恥ずかしいぐらいストレートな歌詞に甘酸っぱい記憶が蘇る。

『バスケが上手な男子ってカッコいいよね~』、憧れの女子の一言が私のやる気スイッチを入れた。中学校に入学してすぐに、迷うことなくバスケット部に入部した。
私は燃えていた。誰よりも頑張って、上手くなって、そしてキャプテンになるのだ。あの歌詞ではテニス部だが、とにかくキャプテンだ、何としてもキャプテンだ、キャプテンになるのだ。

3年生が引退して、新キャプテンが選ばれた。それは2年生になって他の部から移ってきたK君だった。身長175cm、そしてイケメンだ。
残念ながらキャプテンにはなれなかった。でも悔いはない。動機は何であれ、自分で考え、自分から進んで動いたのは、自分史上初めてだったのだ。
思い悩むより、とにかく一歩踏み出せばいいのだと知った。躓いたり転んだりすることが多々あるが、自分で選んだことなのだ。腹を括って立ち向かうしかないのだ。もちろん間違うこともあるが、その度に軌道修正すればいいのだ、何度も、何度でも。

山本甲士・著「ひろいもの」小学館文庫
 
対人関係に自信が持てないバイト店員、イベント司会ばかりの女優、喧嘩早い性格で転職を繰り返す元不良、いじめが原因で三年間引きこもっている元高校生、恋人の死にうちひしがれる悲嘆の女性。
彼、そして彼女たちは皆ある「ひろいもの」をする。セカンドバック、サングラス、警察手帳、ハンドグリップ、腕時計、拾ったものはそれぞれ違うが、共通点がある。それらは「思いが込められた道具」であり、それを拾った善良な悩める人に運命の転機が訪れるのだ。
5人の物語をオムニバスで綴っていきながらそれぞれの話がリンクしていく。読んだ後、気持ちが前向きになるハートウォーム・ストーリー。
 
私のお気に入りの話は最初の「セカンドバック」だ。人と接するのが苦手で気弱なアルバイト店員が、拾ったバックを持ち主に返そうと奮闘するうちに、社会人として自信を持ち成長していく姿がユーモラスに、そして“ほっこり”と描かれている。
本当に接客は難しい。マニュアル通りにはいかないものだ。色々なタイプのお客様に対応するには経験や慣れが必要だが、結局は本人の仕事に対する熱意なのだ。

― カバンのことにも、ますます詳しくなった。ある程度の知識を得ると、それを扱う仕事への興味が増す。いろいろ知っていると客の態度もかなり違ってくる。だから、さらに知りたくなる。―
 
「カバン」を自分が取り扱っている商品名に変えて読むと立ち直るヒントが見えてくるはず。
「頑張って!」と言うかわりに、あの人に渡してあげたい一冊。

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