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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2014/01/16 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
文庫
眠る盃
著者:向田邦子
出版社:講談社
CDを買った。録音1956年2月/N.Y.C、ミリー・ヴァーノン「イントロデューシング」。
決めていたわけではない。添えられていたコメントを読み思わず手に取ったのだ。
― ビリー・ホリデイを彷彿とさせるグルーミーな唄声が魅力の謎の美人シンガー、ミリー・ヴァーノン。今は亡き人気脚本家・エッセイスト、向田邦子が愛したジャズ・アルバムとして、多くの人が探し求めていた話題作が待望の復刻! ―
謎の美人シンガーにもだが、興味を引かれたのは「向田邦子が愛したジャズ・アルバム」というところ。これを聴きながらあのエッセイを書いたのだろうか・・・想像が膨らんでいく。
仕事帰りの車内で早速聴いてみることにした。真冬、深夜の神辺町はとても冷える。フロントガラスは凍っている。暖まるのを待つ間にCDをかける。例の「ビリー・ホリデイ(クリス・コナーかも知れないが・・・)を彷彿とさせるグルーミーな唄声」が聞こえてくる。
やがてスバルの軽自動車はクールでホットなジャズクラブになり、向田邦子の書斎となる。
― 水羊羹を食べる時のミュージックは、ミリー・ヴァーノンの(スプリング・イズ・ヒア)が一番合うように思います。この人は、1950年代に、たった一枚のレコードを残して、それ以来、生きているのか死んだのか、まったく消息の分からない美人歌手ですが、冷たいような、甘いような、けだるいような、生ぬくいような歌は、水羊羹にピッタリに思えます。 ―
この随筆は1977年・雑誌「クロワッサン」に掲載、後に「眠る盃」、「暮らしの愉しみ」などにも転載、NHK・向田邦子特番でも取り上げられていた。ミリー・ヴァーノンの歌は遺品展の会場でも流され、実際このレコードも置かれていた。その為、一部でこのレコードが大変評判になり、中古レコードも値段が暴騰したという。
POPのコメントに興味を持ち、つい手に取り買ってしまう。コメントから情景が浮かび、自分だけのストーリーが始まる。そしてもっと深く知りたくなる。それが次に繋がるのだ。
この情報は誰もが必要としているわけでないだろ。でも、さりげなく添えられたコメントに胸が高鳴る人がいる。これは私の為に書かれたものだと。
この経験が重なり行きつけの店となる。