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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
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本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2014/09/14 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
文庫
家日和
著者:奥田英朗
出版社:集英社
妻が左手を骨折した。買い物に出掛けようとした時のことだという。駐車場から車を出したが、忘れ物に気づき一旦道路脇に停車。急いで取りに帰り、再び乗り込む時に慌てていて転んだそうだ。
右手には荷物、地面はアスファルト。倒れながら体をひねり、とっさに突いた左手は、ありえない方向に曲がり・・・
妻は娘に付き添われて病院に行った。三角巾で腕を吊るした包帯姿が痛々しい。顎を打ち、あざも出来ている。だがその程度で済んで良かったと考えるべきかもしれない。
そんな妻の姿を見て娘と息子と私の残る3名は、なぜだか妙にテンションが上がった。クラスの誰かが朝礼の時に貧血で倒れたり鼻血を出したりした、あの雰囲気に似ているのだ。保健室を覗きに行く者がいたり、ザワザワして落ち着かない教室が否応なく気分を昂らせたあの状況だ。
不謹慎と思いながらも、なんだか懐かしいものを感じていた。
帰宅して安心したのか、またハイテンションな私たちにつられたのか、妻は腕の痛みも忘れ得意になってその時の状況を説明し始める。そして自虐的なノリツッコミで笑わせ、いつの間にか話の主導権を握っていた。
転んでもただでは起きない。やはり妻は、どんな時でもわが家の不動のセンターだ。
その夜、妻の代わりに娘が作った夕飯には独特な味付けが施されていたが、妙なテンションのおかげで気にならなかった。それよりも、これから家事全般をどのように分担するかが、わが家にとって最重要課題なのだ。
娘と息子も今は働いている。私も含め3名それぞれの休日が異なり、ほとんど重なっていない。その為、みんなで揃って出かけることが少なくなったが、逆にこんな時は役に立つ。それぞれの休日に、交代で家事をすることが出来るのだ。
いまさらながら家事は大変だと思い知らされる。まず息子が逃げた。休日には友人と外食するようになった。遅番から帰った娘がマジギレしていた。
だが妻は息子には甘い。若い男の子だから仕方ないと庇うのだ。一方で妻は、洗い物をサボった私に対しては聞こえるように愚痴を言う。そんな時、娘が何も言わずさりげなく代わってくれる。
それぞれの本性であったり、お互いをどう思っているのか等、家族内の人間関係も露わになる。
ほころび始める家族の絆。このような雰囲気は早く断ち切らなければならない。その役目を担うのは、もちろん私だ。
家事は溜め込まず、「ハイ!よろこんで」と明るく取り組むのだ。いやそれでも不十分だ。本来は言われる前に片付けるべきことなのだ。
妻がお昼寝の間に済ませておくことにする。起きて驚くな!
― 日々の暮らしの中、ちょっとした瞬間に、少しだけ心を揺るがす「明るい隙間」を感じた人たちは・・・。今そこに、あなたのそばにある、現代の家族の肖像をやさしくあったかい筆致で描く傑作短編集。―
「家日和」 奥田英朗・著 集英社文庫
部屋を見渡し「ありがとう。」と感謝を述べる妻。「いや、お礼なんていいよ。」と返しながらも調子に乗り、女子の憧れのシチュエーション「壁ドン」に挑む私。
「痛い」妻と「イタい」夫が織りなす、それぞれの家族の、それぞれの「家日和」。
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