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本さえあれば、日日平安

本さえあれば、日日平安

長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2014/10/30 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

ハブテトル ハブテトラン

著者:中島京子

出版社:ポプラ社

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ハブテトル ハブテトラン

「ほいじゃー、行ってくるね―。」、娘は意気揚々と出掛けて行った。半年間と短期ではあるが、海外の大学への語学留学。以前から計画していたようで、高校を卒業してから3年勤めた仕事もスパッと辞めた。
人は意欲さえあれば何時からでも勉強ができる。しかし若くて自由が利くときにしか出来ないことは確かにある。闇雲に心配して子どもの足を引っ張ってはいけない。不安は残るけど送り出すことにした。

娘が生まれた時、私は勤務中だった。看護師さんが職場に電話で知らせてくれた。「泣き声が聞こえていますか~、元気な女の子ですよ~。」 楽しみはとっておくタイプなので、あえて性別は聞いていなかったのだ。
居ても立っても居られなかった。「む、む、娘に会いに行ってきます。」、店長に了解を得て病院に向かった。娘は2100gと体重は少な目だった。特に問題は無いようだったが、大事をとって保育器に入れてもらっていた。初対面はガラス越しだったが、一目でうちの子だと分かった。
「ぶち可愛い!」 親バカな私も、その時に誕生したのだ。

初めて腕に抱いた時、想像していた以上に小さくて軽いので驚いた。でも生れてきてくれただけで嬉しかった。そこに居てくれるだけで幸せを感じた。

娘も私も仕事は遅番が中心だったので、奥さんと息子が寝た後は娘を独占して会話が出来た。お風呂上がりに娘はマッコリを飲み、お酒がダメな私はトマトジュースを飲んだ。
録画しているTV番組を一緒に見て、「マッサンと呼んでくりょう!」などと、朝ドラを見ている人しか分からないオヤジギャグで笑ってくれた。たわいのない話をするだけだが、私にとってはかけがえのない時間だった。
そんな穏やかでほっこりとしたひと時も、しばらくは味わえないのだ。居なくなると、やはり寂しいものだ。独りで飲むトマトジュースは、やけに冷たく感じる。

今は色んな方法でコミュニケーションがとれる。子どもたちはもちろん、機械音痴の奥さんでさえスマホを持っている。家族でグループを作り、それぞれが気ままに書き込める便利なアプリがある。
ただ履歴を見て唖然とした。よく見ると娘は、私の書き込みに対しては返しが無いのだ。息子のには「何なんよ~(笑)」なんて、すぐスタンプを送っているのに・・・、 それに奥さんとは毎日電話をしているようだ。なぜ父には無反応。あの笑顔は愛想笑いだったのか? 
なんか「おもしろーない」のだ。

今も奥さんと娘が電話で話しているようだ。「あっ、そーじゃ、お父さんがハブテとるけー、直接電話してあげて~ね。」と私を見てニヤニヤしている。

「ハブテとらんわ!いらんことを・・・」と口では言いながら、奥さんの心づかいは、ホントは嬉しかったりする。

「ハブテトル ハブテトラン」 中島京子・著 ポプラ文庫

― 「ハブテトル」とは備後弁で「すねている」という意味。母の故郷・広島県松永の小学校に、2学期だけ通うことになった小学5年の大輔。破天荒な大人や友達と暮らすうち、大輔は「あること」に決着をつけようと、自転車でしまなみ海道を渡ることにする。―

備後弁がネイティブな私たちにはたまらない。大輔を「でゃーすけ」と呼ぶハセガワさんは近所に居そうだし、ゲタリンピックをはじめ仙酔島、潮崎神社、朱華園、プリントップ、「からさわ」のアイスクリーム、馴染みのある実在の固有名詞がすんなりと物語に入り込ませてくれる。
もちろん、それだけで読ませるわけではない。大輔が親元を離れて松永で、しまなみ海道で、いろんな人と巡り合い成長していく姿にエールを送りたくなるのだ。そして最後まで読むと、この作品の本当の魅力に気付くはずだ。
大輔を応援しているつもりだったが、色んなことを経験し、大人たちから声をかけられ成長していく大輔の姿に励まされていたのは、実は私たち読者の方なのだ。

優れた児童文学は、子どもだけでなく大人をも励ます人生の応援歌なのだ。

娘からの最新のメッセージによると、今日は学校の説明会があり、色んな国籍の人と同じクラスだったらしい。学校が始まるとかなりハードになるので、あまり連絡が出来ないかも、とも書いてあった。
親元を離れ独り海外で頑張っている娘の姿に励まされているのは、私の方なのだ。

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