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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2014/11/20 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

竜馬がゆく

著者:司馬遼太郎

出版社:文藝春秋

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竜馬がゆく

今、私は萌えている。この歳で、またハマってしまったのだ。

それは「何度目の青空か?」を歌う乃木坂46ではなく、アイドル繋がりで思い出し、YouTubeでこっそり見ている河合奈保子でもない。
「竜馬がゆく」 司馬遼太郎が描く、幕末の動乱期を劇的に生きた坂本竜馬。

三十数年前の話。私は大阪で一人暮らしをしている大学生だった。2歳上の兄も大学生だったが、隣県なので自宅から通っていた。6歳下の妹はまだ中学生だった。3人ともお金のかかる時期なのに、よく許してくれたものだ。私だけ親元を離れて一人暮らし、ましてや私立の大学。
 
お金を使わせて申し訳ない思いがあり、できるだけ質素な生活を心がけた。風呂無しで家賃2万円の自炊生活。テレビは無し、電話も無し。大家さんであるパーマ屋のおばちゃんから借りたママチャリで大学に通っていた。銭湯の帰りには小銭を握りしめ、公衆電話から実家に電話した。母や妹と話すことで寂しさを紛らしていた。
そんな時、体育会の部活に勧誘され入部した。まだ友人と呼べる存在が居なかったこともあるが、ある一言に心をわしづかみされたのだ。
「女子大との合同練習もあるんやで~」

でも、それは甘い罠だった。同じように勧誘され、合同練習を夢見て厳しい練習と上下関係に耐えている私たち1回生(関西の大学では◯年生ではなかった)に、「明日から坊主頭やからな!オ~、マルガリ~タ♪」と先輩から指示が出た。
その時は既に、先輩の言葉には「押忍!」と返事して従うように訓練されていた。長髪がカッコいいとされていた時代に、高校球児のような丸刈り。おまけに学ラン。大学生なのに・・・
 
学ランのポケットには常にマッチ箱があった。先輩が煙草を取り出すと「押忍、おつけいたします!」と膝まづいた。「冬やのにセミが鳴いとるの~」と言われれば、電信柱に登って鳴き真似をした。難波の南海高野線に向かう階段では、横一列でうさぎ跳び。1時間も正座した後、痺れた足でダッシュするという芸人の罰ゲームの様なこともさせられた。

練習も上下関係も厳しい。これまで経験したことが無い辛さがあり、しんどい毎日だった。だけど何故か笑えて、充実していた。

部屋にはテレビが無いので、下宿に帰ると大学生協で買った本を読んでいた。「風の歌を聴け」と「1973年のピンボール」の2作品を上梓された村上春樹が、作家を専業にしようと決意された頃だとは後で知ったこと。当時は読んでいなかった。
その時に出会い、夢中になって読んでいたのは「竜馬がゆく」だ。

竜馬が江戸へ剣術修行に旅立つ場面から始まる。19歳だとある。同い年だ。幼いころは泣き虫だった、出来が悪かったと繰り返し書かれている。そんな竜馬が奇蹟をおこすのだ。
すぐに竜馬の魅力に虜になった。時間を忘れて読んだ。部活で疲れているはずだが、何時までも読んでいられた。結末も何となく知っていた。終わって欲しくない。そう願いながら読んだ本は、これが初めてだった。
本を読むとは何と面白く楽しいことだろう。そんな経験が出来ただけでも、私にとっては価値のある大学生活であり、一人暮らしだったと感じている。

疲れたな、何か最近楽しくないな。と感じた時、「竜馬がゆく」を読む。辛くて大変なこともあったけど、毎日が「青空」だったあの頃に戻りたい。そう願う時、私は「竜馬がゆく」を読む。

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