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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2014/12/09 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


フィクション

竃さらえ

著者:見延典子

出版社:本分社

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竃さらえ

「女子か!」と妻から度々言われる。
私には、理由もなく突然センチな気分になる癖があるからだ。でも仕方がないではないか。私もそんなお年頃、悩める中年、思秋期なのだ。

感傷的な気分を煽るかのように、頭の中では子どもの頃に見ていたアニメ『タイガーマスク』のエンディング曲「みなし児のバラード」が流れる。
やがて『ルパン三世』、『はじめ人間ギャートルズ』、『宇宙戦艦ヤマト』と曲目が変わっていくが、いずれもエンディング曲ばかりが続く。
切ないメロディが、もの哀しい気分を「いい具合」に盛り上げてくれる。

エンディング曲が好きになるのは、その作品、その物語自体が好きだからだ。さらに逆もある。気に入った作品には、勝手にエンディング曲を付けたくなるのだ。
もちろん本を読み気に入った物語にも、どんな曲が合うのだろうかと考える。

『竃さらえ 見延典子短編集 頼山陽をめぐる物語』
見延典子・著 本分社・刊 

江戸時代後期の文人・頼山陽にまつわる虚虚実実、9つの物語。なかでも私が好きなのは「一花一草」

幼少より読書や文を綴るのが好きだった稲津家の長女・景は、「女子にこれ以上の漢文など不要や。」と言う父を持ち前の強情さで説得し、二いとこでもある梁川星巌の塾に通っている。一方、幼い頃に両親を亡くして親族の手で育てられた星巌は、19歳の時に昌平坂学問所への入学を希望して江戸に旅立ったが夢破れ、自暴自棄となり借金を重ね故郷に逃げ帰った過去があった。

景はある日、いつもと違う星巌の様子に気づく。星巌は京に行き、西日本各地を遊歴している頼山陽と逢い「胸に期するものがあるなら、行動に移さねばならぬ、自分の人生は自分で切り拓いていかねばならぬと思いはじめた。」と語って聞かせる。
そんな時、遊蕩の虫がぶり返しては困ると考える親族から星巌への縁談話が持ち上がる。心がざわつく景。

「星巌先生はうちのことをどのように思われていますか」、31歳の星巌に16歳の景が想いを告げる。

この物語のエンディング曲には何が合うだろうかと考え、ふと思い出した。NHKの「あさイチ」にゲスト出演されていた俳優の小日向文世さんが、最近YouTubeでハマっていると言われていた女性シンガーのUru。本当につい聴き入ってしまう、心に沁みる歌声だった。
彼女の歌の中で「一花一草」のラストシーンに一番ハマると感じたのは、中島みゆきのカバー曲『糸』だった。

なぜ めぐり逢うのかを 私たちは何も知らない 
いつ めぐり逢うのかを 私たちはいつも知らない
どこにいたの 生きてきたの 遠い空の下 ふたつの物語

縦の糸はあなた 横の糸は私 
逢うべき糸に 出逢えることを 人は仕合せと呼びます

― 9編どれも短編でありながら、長編の読み応えを味わうことができる作品でした。素晴らしい作品と出会わせてくださった見延典子さんに感謝します ― 啓文社廿日市店 迫井武範

各作品の前には、それぞれ「著者の覚書」が記されている。そこには、著者自身が頼山陽の母、頼梅颸(ばいし)に出逢えた仕合せが綴られていた。それがこの物語、そして著者をグッと身近な存在にしてくれた。
 
思う人、熱中できることに出逢えた仕合せを感じられる珠玉の物語。

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