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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
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本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2015/02/10 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
文庫
素足の季節
著者:小手鞠るい
出版社:角川春樹事務所
私が通っていた広島県立福山I高校。現在は移転しているが、その頃は福山駅北口を出て西へ歩いて数分、今の広島県立歴史博物館がある場所だった。
当時は総合選抜という入試制度だったので、公立高校に合格しても自分の意思とは関係なく「母校」が決められてしまっていた。選ぶのは「相当にお偉い、誰かさん」か、単純なクジかは分からないが、私としては第一志望だったので幸運だった。
と言っても志望動機は、2歳上の兄が通っていた藩校の流れをくむS高校以外ならどこでも良いというもので、小学校・中学校に続いて高校まで同じ学校には行きたくないという贅沢でヒネクレた考えからだった。ちなみに妹も兄と同じS高校なので、兄弟揃って同窓生とならなかったのが残念ではあるが。
だが駅に徒歩数分という立地は、とにかく魅力的だった。部活もせず、塾があるわけでもなく何も用がないのに、いや用がないからこそ駅周辺を友人と毎日うろついていたのだ。
郊外店もまだ多くない時代で、駅前と周辺の商店街がとても賑やかだった。書店(本通りの啓文社、その後就職し店長になるとは想像もしていない)、レコード屋、電器屋、映画館、喫茶店、ボウリング場、そしてプールでありスケート場にもなったスポーツセンター、暇な高校生を歓ばせるものが何でも揃っていた。インベーダーゲームが大流行したのもその頃だ。
一緒にウロウロしていた友人にロックバンドを組んでいる奴がいた。繊維ビルに楽器屋があり、その上の貸しスタジオで練習していた。一度見に来いと言われて行った。ボーカルは他の組の女子で、レッド・ツェッペリンの「ロックン・ロール」をコピーしていた。
何度か見学していたら、「文化祭に出るからお前も歌え。」と言われた。高校の卒業生には世良公則さんがいたこともあり、バンド活動は盛んだった。文化祭には他にも多くのバンドが出るし、高校時代の想い出も欲しかった。大好きだった甲斐バンドの「ポップコーンをほおばって」と「氷のくちびる」の2曲に決めた。
いつもの様に駅前をブラブラしようとの誘いに、「今日はバンドの練習があるから」と断る時の優越感。スタジオに入り、音を出し調整しながら「じゃ、ちょっと合わせてみようか」などといっぱしの台詞に自己陶酔。出来には関係なく、演奏後のドヤ顔とOKサイン。はたで見ているとコントにしか思えないが、本人たちは至って真面目に不良をしていた。
本番は周りが見えると緊張するのでサングラスをかけた。無我夢中であまり覚えていないが、拍手もまばらだったように思う。でも始まる前の緊張感は高揚感に変わり、やり終えた満足感があった。
文化祭までのわずかな期間だが、仲間と一緒に何かに打ち込んだあの時のことは忘れない。ほとんど灰色だったあの季節の中で、恥ずかしげもなく青春と呼べる唯一の時だったのだ。
「素足の季節」 小手鞠るい・著 ハルキ文庫
― 県立岡山A高校に入学した杉本香織は、読書が好きで、孤独が好きで、空想と妄想が得意な十六歳。隣のクラスの間宮優美から、ある日、演劇部に誘われる。チェーホフの『かもめ』をアレンジすることが決まっているという。思いがけずその脚本を任されることになった香織は、六人の仲間たちとともに突き進んでゆく。―
ドキドキしながら読んだ。年代的には私よりも上の世代だが、何せ主人公は女子高生だ。甘くて切ない女子高生の・・・、そんな淡い期待はすぐに裏切られる。
リアルだ。リアル過ぎる。彼女たちの話す方言、また実在の固有名詞が出てくるからだけでなく、本物の「少女たちのむき出しの喜怒哀楽」がそこにあるからだ。読み進むほどに彼女たちの言葉と行動は鋭く激しくなり、胸に突き刺さる。女子同士の会話の中に見え隠れする言葉には出来ない気持ち、言葉にしてはいけない本心。複雑な恋愛関係と悩ましい女子の友情。ハラハラしながらも読むのを止めることは出来なかった。
彼女たちが高校生として普通なのか早熟なのかよく分からないが、少なくても男子よりは随分と大人だったのだ。それも短期間に、すごいスピードで大人になっていくのだ。
読み終わると、自分の高校時代が薄っぺらに思えて恥ずかしくなった。ほどほどで満足して、いい思い出だったと片づけてしまう様な単細胞で幼い男子には、青春はまだ来ていないのだ。
その季節を青春と呼んでいいのは、全身で悩み、全身でぶつかり、深みにはまり込み、泥まみれになることも傷つけあうことも厭わない女子だけかも知れない。
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