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本さえあれば、日日平安

本さえあれば、日日平安

長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2015/05/11 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

ハルさん

著者:藤野恵美

出版社:東京創元社

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ハルさん

娘が半年間の留学から帰国。何せ海外だ。彼女は、すっかり変わってしまっているかも知れない。私のことを「お父さん」ではなく、「パパ」と呼ぶのではないか?「会いたかった~」と言いながら、ハグしてくるのではないか?

娘は今年で24歳だ。AKB48でいえば柏木由紀と同い年だ。そう、あの「ゆきりん」だ。週刊少年マガジンの巻頭グラビアだったことを思い出し、雑誌整理をしながらガン見してしまった。袋とじミニ写真集付き、もちろん水着はビキニだ。

『すげぇ!!』、娘と同い年のアイドルに対し、中学2年男子と同レベルの感想しか持ち得ない私は、それでも父親だ。アイドルならまだしも、娘相手にドギマギするわけにはいかない。帰宅後に迎えるその瞬間は、あくまでも自然に落ち着いた態度で臨まなければならない。でも、想像するだけで緊張してくる。
よし、たとえ娘からハグしてきても、照れずにしっかりと受け止めよう!
 
帰宅すると娘は、既に関空から岡山経由で帰って来ていた。彼女はお風呂あがりだった。ドライヤーを止め振り返り、「よっ、久しぶり!」と片手をあげてオッサンのような挨拶をした。ただ、それだけだった。
「元気だったか?」と言いながら平静を装い娘の横を通り過ぎた私は、心の中で思っていた。

「パパ」はどうした!ハグはないんか!!

シャワーばかりだった様で、『やっぱり、お風呂はええね~』と言いながらメガネをかけた娘は、「ゆきりん」ではなく光浦靖子に似ていた。
父親として私は、その現実を、しっかりと受け止めた。

「ハルさん」 藤野恵美・著 創元推理文庫

― 「この僕が、花嫁の父になるなんて・・・」、娘のふうちゃんの結婚式の日、お父さんのハルさんは思い出していた。幼稚園児のふうちゃんが遭遇した卵焼き消失事件、小学生のふうちゃんが起こした意外な騒動、心底困り果てたハルさんのためにいつも謎を解き明かしてくれるのは、天国にいる奥さんの瑠璃子さんだった。頼りない人形作家の父と、日々成長する娘の姿を優しく綴ったほのぼのミステリ。 ―

と書かれていたが、この作品は「ほのぼのミステリ」ではなかった。娘を持つ私からすれば、「うるうる」ミステリだった。

わが家の娘は、再び出て行ってしまった。わずか1週間足らずの一時帰国だった。通称「ワーホリ」と呼ばれている制度を利用し、今度は1年間働きながら学ぶというのだ。
娘の人生だから口出しはしない。何が起きても自己責任なのだ。でも心配でしかたない。娘も年頃だ。そう言えばTVで見たことがある。こんなところに日本人妻が・・・、とかいう番組。大概が留学先で知り合うらしい。
そのうち、「オトーサン、ハジメマシテ~」と言われてしまうのではないか?また自分勝手な妄想に、悶々とした日々が始まる。

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