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本さえあれば、日日平安

本さえあれば、日日平安

長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2015/06/21 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

BT’63

著者:池井戸潤

出版社:講談社

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BT’63

父親だったら、みんなこの時を待ち望んでいるはずだ。息子と初めて酒を酌み交わす日。わが家にも、遂にその日がやってきた。このコラムを始めた時は中学生だった長男が、めでたく二十歳の誕生日を迎えた。

「お父さん、一緒に酒飲もうや!」、息子の方から誘ってきた。お酒は苦手だが、もちろん彼の成人を祝して一杯だけつきあった。よく考えたら半年も過ぎようとしているが、これが今年初めて口にしたお酒だ。そして「酒の飲み方は、お母さんに教わりんさい。」と、後のことは妻に任せた。
山陰は鳥取県出身の妻。彼女はお酒がめっぽう強く、「米子のヤマタノオロチ」と呼ばれていたのだ。

「よっしゃ、かかってこんかい!」、私が密かにオロチちゃんと呼んでいる妻と息子のさし飲みが始まる。しばらく観察していると、どうやら息子は妻の家系の体質を引き継いだようで、オロチくんになりそうな予感がしてきた。
実社会では、もちろん「いけるくち」の方が何かと有利ではある。良かったような、でもそうとばかりは言い切れないような、複雑な気持ちだ。

とにかく、息子の方が私よりお酒に強いことが分かった。そればかりではなく、今は背丈も(1cmだけだが)息子の方が高く、日々ダンベルで鍛えている彼には腕相撲でも負けてしまう。高校出たら働くからと、自ら希望し通信講座でペン習字を習っていたので、字は私より100倍上手い。
彼は既に、色んなことで私を追い越しているのだ。

でも、そんな彼は、父親である私をどう思っているのだろうか。気になって訊いてみた。妻と飲み比べをしながらも、いっこうに顔に出ていない彼は言った。
「尊敬しとるよ。」

顔に出ていないだけで実は酔っているのかもしれない。それでも嬉しいものだ。日付は変わり、6月の第3日曜「父の日」となった。
もちろん、その言葉だけで十分だ。あとは何も要らない。


池井戸潤・著『BT’63』(上巻・下巻、講談社文庫)

父と息子の感動長編ですが、人の心の闇の部分を描いているところが多く、時に胸苦しくなります。また、主人公は過去に行き、父親と同じ目線(父親に同化して)で若いころの父親の苦悩を知るという、とても不思議な物語です。
古い日活のアクション映画に出てくるような癖のある敵役も登場します。お金が絡んだ殺人もあり、読後が爽やかとは言い難いので好き嫌いが分かれるかも知れません。でもハマると一気に読みたくなります。

娘は「優しいお父さん」が好きですが、息子は「優しいお父さん」や「優しいだけのお父さん」は、あまり好きではありません。でも「頑張っているお父さん」を嫌いにはなれません。
「父の日」に是非読んでほしい作品です。

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