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本さえあれば、日日平安

本さえあれば、日日平安

長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2015/10/25 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

斎藤隆介童話集

著者:斎藤隆介

出版社:角川春樹事務所

ショッピングサイト
斎藤隆介童話集

女性のお客様からお問い合わせを受けた。内容は本のことではなかった。個人的に私の連絡先を教えて欲しというものだ。少し躊躇したが、笑顔の素敵な女性だったので番号を交換した。すぐにLINEでメッセージが届いた。
「店長!いまナンパされてませんでした?」、そのやり取りをレジから見ていたアルバイトの女の子が、驚いて聞いてきた。私は答えた。「同窓会があるらしいんだ。」
その女性は小学校、中学校、そして高校も一緒の同級生だった。

先日まで勤務していた店舗は私の実家のすぐ近くだった。だから雑誌を定期にしている知り合いがいて当然だ。
知り合いどころか、父親が散歩がてら健康書を買いに来た。店内に私の姿が見えない日は、心配して自宅に電話をかけてきた。「今日はどうした、休みか?具合でも悪いんか?」と矢継ぎ早に妻に尋ねた。妻はドヤ顔でこう答えていたらしい。
「安心してください。行ってますよ。」

そんな店での出会いで一番嬉しかったのは、小学校6年生の時の担任だったK先生にお会いしたことだ。K先生は私の父親ぐらいの年齢なので80代半ばのはずだ。
その時、インフォメーションカウンターにいた私は、絵本のお問い合わせを受けた。「K先生に似ているなぁ」と思いながらも普通に対応していた。その絵本は生憎品切れで取り寄せになった。コア福山西店に在庫があったので明日には届きますとお伝えし、名前をお伺いした。
やはり、そうだった。K先生だ。
 
私は目立たない生徒だったし40年も前のことだ。もう覚えてはいらっしゃらないだろうと思いながらも、失礼ですが・・と話しかけてみた。K先生は「ああ・・」と言われ、思い出されたようだった。私は珍しい苗字ではあるが、それでも近所に何軒かあるので勘違いされているかもしれない。でもそのことはどちらでもよかった。
K先生に伝えることができたのだ。先生のおかげで読書が好きになり、こうして書店で働いていることを。
 
「斎藤隆介童話集」 ハルキ文庫

「モチモチの木」、「花さき山」、「ベロ出しチョンマ」、「八郎」など、その多くの作品が教科書に載り、絵本になっている斎藤隆介の「絵のない」童話集。もちろん絵本だから感じられること、絵本ならではの味わいもある。作品を印象深いものにするためにも絵は欠かせない。
だがこうして文章だけで読むと、作者がその話を直接語りかけてくれている感じを受ける。より鮮明に作者の声が聞こえてくる。
 
「自分で自分をよわむしだなんて思うな。にんげん、やさしささえあれば、やらなきゃならねえことは、キッとやるもんだ。それを見て他人がびっくらするわけよ。」
― 「モチモチの木」より ―

人を励ますために、わが身を削って物語を紡いでいる作家がいる。その作品を語り続け、伝えようとする人もいる。K先生の足元にも及ばないが、今は私も伝える人のひとりだ。
私の「やらなきゃならないこと」は書店員であり続けることだ。K先生がずっと先生であり続けたように。

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