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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2016/02/07 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
ノンフィクション
まちの本屋
著者:田口幹人
出版社:ポプラ社
店のスタッフと飲み会があった。女性が7名、男性は私だけというハーレム状態だった。私服の書店ガールは華やかで、賑やかだ。こんな時は店長の役得を感じる。
参加メンバーをぐるっと見渡す。ベテランさんとベテランさん、更にベテランさんから、ぶちベテランさん、ぼれぇベテランさん・・・。うちの店は、みんなトリプルスリーを狙える強打者が揃った最強打線なのだ。
そんなチームを率いている私はお酒がダメなので、いつも以上に大人しく、温かい烏龍茶をチビチビ飲みながら黙々と食べているだけだ。
お酒がほど良く回ってきたスタッフにとっては、『何か面白い話ぐらいせーよ!』かも知れないが、彼女たちは思っていてもそんなことは口にしない。みんな大人なのだ。強くて優しくてたくましい、トリプルスリーの書店ガールが揃っているのだ。
それに気を遣って、時々は話を振ってくれるスタッフがいる。今は二十歳になった息子の幼い頃を知っているKさんが、「目がパッチリしていて可愛い息子さんでしたよね。」と持ち上げてくれる。ありがたいことだ。
確かに幼い頃の息子は、出会う人から口々に「可愛い子じゃね~、誰に似たんよー!」と言われていたのだ。でも、そこは「誰に・・・」じゃなくて、「お父さんに似て」なんだけどなぁ、と思っていた。
そんな息子が小学生の頃だ。その時勤務していた店で「かいけつゾロリ」の着ぐるみイベントがあり、息子も見に来ていた。書店はお客様に楽しんでいただこうと、色んなイベントを行っている。
ゾロリと一緒に写真が撮れて握手も出来るのだ。子どもたちのテンションは最高潮。大はしゃぎでとても賑やかだ。1回目が終わった時、息子から手招きされたので行ってみた。
「お父さん、もっと声を張らんと聞こえんよ。」、その場を仕切っていた私へのダメ出しだった。これは部長から指摘されるよりも辛い。2回目は気合を入れて臨んだ。
やがて中学生となった息子は卓球部に所属し、「卓球王国」という雑誌を毎月楽しみにしていた。その頃も休みの日にはよく店に連れて行っていた。
帰りの車で息子から言われた。『「卓球王国」を見つけたけど場所が悪いよ。ゴルフ雑誌の横にあったよ。置くんならテニス雑誌の横じゃろー』
SVの臨店報告書の様な指摘にハッとさせられた。いい加減なことは出来ない。楽しみにしている人からすれば、発売日に然るべき場所に置いてなければ、在庫が無いのと同じことだ。
そして最近息子は、庭木を扱う仕事に転職した。お客様からの質問に答えられるよう勉強しようと樹木の図鑑を探しているという。これはというおススメは?との質問。
恥ずかしながら考えたこともなかった。樹木の図鑑を比較しながらじっくり見たこともない。とりあえずネットで検索して売上データを確認しようか・・・。
また息子から叱られそうだ。何のためにリアル書店に勤めているのか。店頭に現物があるじゃないか。まず売場に行って、自分の目で確かめる。データやネットの評価なんて二の次だ。
さわや書店フェザン店(岩手県盛岡)店長・田口幹人・著
「まちの本屋」 ポプラ社・刊
― 僕は、この仕事は「本が好き」だけではやっていけないと思っています。本を「売る」ことが僕らの仕事だからです。書店員には、本が好きな人が向いているか、嫌いな人が向いているかと言えば、好きであることに越したことはありません。しかし、まったく本を読まない人でも、本を売ることは出来ます。ただ確かなのは、本を読んでいる書店員は、読んでいない書店員と違う売り方ができる、ということです。 ―
「売れた」でもなく、「売らされた」でもない。自分で「売った」と言える本があるか。「売る」と決めた本は、あらゆる工夫をして徹底的に売る。著者の言葉、仕事への向き合い方、実際の行動は、学ぶべきことばかりだ。