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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
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本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2016/03/03 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
文庫
妻の超然
著者:絲山秋子
出版社:新潮社
妻と出逢ったのは26歳の時、結婚したのは27歳だった。実際にはその間は1年も経過しておらず、付き合い始めて半年で結婚が決まった。私よりも、もう一つ上の年代になっていた彼女は、やはり少なからず焦っていたようだ。
結婚式のことだ。年齢差のごとく一歩、二歩どころか、三歩も四歩も前に出ようとする妻は、雅楽に歩調を合わせてしずしずと進む私を「遅っ!」と追い抜き、何と先に式場に入ってしまった。
「だめー!花嫁さんは後ろ!後ろ!」と巫女さんは慌てて連れ戻した。そんなやり取りを見ていた神主さんは、肩を震わせながら何かを必死に耐えていた。
妻の背中を追いかけることになった私の結婚生活は、お陰様で27年も続いている。これまでの人生の半分を彼女と一緒に暮らしていることになる。でも、いまだに妻のことはよく分からない。価値観が違うのだ。考え方というか、感性というか、理解できないところが多いのだ。
例えば、いい歳をして私には貫禄というものがない。言動にも威厳がなく、他人から軽く見られてしまうという悩みがあり、妻に相談したことがある。彼女は私を指さし、その解決策をキッパリと言ってのけた。
「ハゲるか、太るか、白髪になれ!」
本当はそういう問題ではないのだが、かと言って真剣に悩むことでもないのだと気づかされる。「なんでやねん!」とふたりで笑って一件落着となる。
自由過ぎる発想ができる妻によって私は迷いから解放される。一緒にいることで落ち着きを取り戻し、話すことで気が楽になる。
妻は天然だ。そして、どこか超然としたところもある。むろん私は、いくら歳をとっても彼女に追いつくことは出来ない。私にとって妻は、いつまでも年上の不思議な「女の子」なのだ。
『妻の超然』 絲山 秋子・著 新潮文庫
結婚して十年。夫婦関係はとうに冷めていた。夫の浮気に気づいても理津子は超然としていられるはずだった(「妻の超然」)。九州男児なのに下戸の僕は、NPO活動を強要する酒好きの彼女に罵倒される(「下戸の超然」)。腫瘍手術を控えた女性作家の胸をよぎる自らの来歴。「文学の終焉」を予兆する凶悪な問題作(「作家の超然」)。
三つの都市を舞台に「超然」とは何かを問う傑作中編集。
【トークイベント】芥川賞作家・絲山秋子さんと珈琲を飲みながら作品を語ろう
日付・期間:2016年 3月13日(日)午後6時~
場 所: カフェ「本と出会える珈琲店 BOOK MEETS COFFEE」
内 容: 「公開書簡フェア」を開催中の絲山秋子さんがご来店されます。
せっかくの機会なので、珈琲でも飲みながら、このフェアについて、作品について、いろいろなお話を聞かせてくださいます。皆さんのご質問も受け付けます。
定員:15名
参加料:お飲み物をご注文ください。
申込方法:BOOKレジカウンターにてお申込みください。
お電話(084-425-1811)でのご予約も承ります。
◇絲山秋子さんの著書をご購入いただくと、絲山さんが著書にサインをしてくださいます。