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本さえあれば、日日平安

本さえあれば、日日平安

長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2016/09/06 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


コミック

新装版 欅の木

著者:原作内海隆一郎作画谷口ジロー

出版社:小学館

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新装版 欅の木

その痛みは突然やってきた。朝起きようとした時だ。腰から何とも不気味な音がしたのだ。
それは人により「ぎくっ」であったり、「ズキッ」だったりする様だが、私の場合は「ビリッ」という強い電流系だった。これは経験した人にしか分からないが、大げさではなく本当にその様な音がするのだ。
十数年前から2度、3度と同じことが起こったが、ここ最近は無かったのですっかり油断していた。思っている以上に疲れが溜まっていたのかも知れない。
 
咳をすると痛い。くしゃみをすると激痛が走る。顔を洗うのも一苦労だ。靴下(実はパンツも・・・)は奥さんにはかせてもらい何とか出勤するが、当然役には立たない。椅子から立ち上がる時は痛みを耐えながら恐る恐るなので、スタッフに呼ばれてもすぐには出ていけない。
地域限定らしいが、私たちはこの状態を「腰をいわす」と言う。海外では「魔女の一撃」と言うらしい。私も寝ている間に一撃を加えられたのかも知れない。わが家の美魔女から・・・

身体のことで言えば、今年の春に定期検診で胃と大腸からあるものが見つかった。「ポ」から始まるイボのようなものだ。詳しく調べてもらうと両方とも良性だったので安心したが、結果がハッキリわかるまでは落ち着かなかった。色んなことを想像しては憂鬱になった。もともと無駄に妄想力だけは豊かなのだ。こんな時は、それがあだとなる。

これから一体どうなるのだろうかと思い悩んだ。最近よく見聞きする「今は不安しかない。」という台詞は、こんな時に使うものなのだと実感した。まだ起きてもいないことを先回りして心配して、あれこれ気を揉んでも仕方がない。分かってはいるが、寝ても覚めても気になるものだ。
ならば、今だからこそ感じられることをしっかり受け止め、別の形にして利用してやるのだ。

書店員は店頭で時々この様な質問を受ける。「〇〇〇な人に本を贈りたいのだけど、どんな本がいいですか?」というものだ。お答えする為には、色んなケースを想定して、こんな時はこんな本というお勧め本を、頭の中にストックしておくことが必要となる。
自分自身が、もがいたり苦しんだりした時に「この本に助けられた。」という経験があれば、自信をもってお勧めできるのではないだろうか。

『新装版 欅の木』 原作 内海隆一郎 作画 谷口ジロー 小学館・刊

8つの短編が収録されています。読み返すたびに「この話いいなぁ」が変わります。『欅の木』、『兄の暮らし』には、静かな勇気をもらえます。『白い木馬』、『再会』は、しんみりする結末ですが、決して悪くない明日が来るだろうと思わせてくれます。
日常で起きたちょっとした不幸な出来事で、知らず知らずのうちにトゲトゲしていた気持ちやグルグルと渦巻いていた不安がスーと消えていき、いつの間にか癒されています。

もちろん個人的な感想です。本書を読むと誰にでも同じ効果が現れるとは限りません。ただ、本書のように「また読みたいなぁ」と思わせてくれる本を手元に置いておくと、常備薬を持っている安心感を得られます。
本物の薬とは違い、繰り返し服用しても副作用の心配はありません。むしろお気に入りの本を繰り返し読むことが、ほっておくと直ぐにフワフワと浮ついてしまう気分を安定させ、心の健康に繋がるように思います。

「ポ」の不安から解放され(定期的に検査が必要なので、あくまでも一応は・・・ですが)、腰の痛みも和らいだ今は、本書の最後に収録されている『彼の故郷』を読んでウルウルしました。
次に読む時は、どの作品が一番グッとくるのか。それを楽しみにしながら薬箱・・・、ではなく本棚に戻しました。

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