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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2016/11/24 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
フィクション
はじまりの日
著者:ボブ・ディラン作ポール・ロジャース絵アーサー・ビナード訳
出版社:岩崎書店
2人の子どもはまだ幼く、7歳と3歳くらいだった随分と前のこと。その日はクリスマスイブだった。「恋人がサンタクロース♪、本屋さんもサンタクロース♪」と歌いながら、サンタのコスプレで絵本を配達した帰りにふと思いついたのだ。折角なので、このままサンタの格好で家に帰り、子どもたちを驚かせてみてはどうだ。我ながらナイスアイデアだと思った。
しかし8階にある自宅に着くまでの間に、住民の誰かに会うのはちょっと恥ずかしい。駐車場でしばらく辺り様子を伺い、頃合いを見計らい車からダッシュした。幸い誰にも出会わなかった。いつも通りエレベーターの△ボタンを押したが、ここでも誰かに会うかもしれない。はやる気持ちを抑えて、階段で上がることにした。
先ほどのダッシュと8階までの階段にハアハアと息を切らし、それでも子どもたちの喜ぶ顔を想像してドキドキしながら、なるべく音を立てない様にゆっくりと上がっていった。やがてわが家に到着。深呼吸してドアを開けた。
家の中は真っ暗で誰もいなかった。
ちょっと出掛けているだけですぐ帰ってくるだろう。でも家の中でサンタがTVを見てくつろいでいるのも何か変だ。子どもたちの夢を壊してはいけない。皆が帰ってきて、しばらくしてベランダから登場するのはどうだ。今日は妙に冴えている。
ベランダに出て待機したが、このまま帰りを待つのは寒くて辛い。部屋の中で待つことにした。ただし人が居た気配は出せない。照明は消したままで暖房もつけられない。わが家は一番端なので、エレベーターが上下する音が聞こえる。それからベランダに出ても間に合うではないか。ますます冴えている。
エレベーターの音がするたびに、ベランダへの出入りを何度か繰り返した。しかし、やがて疲れてきた私は眠たくなりウトウトしてきて、そのまま・・・
ドタドタと子どもたちが廊下を走る音で目覚めた。続けて「もう遅いから静かにしなさい!」と奥さんの声がした。さらに「ほんに人が多かったの~」、「そげな、そげな」という義父と義母の鳥取弁が聞こえてきた。
私は一瞬ですべてを悟った。子どもたちの笑顔が見たいのは私だけではない。奥さんの両親が来ていたのだ。サンタクロースは、恋人でも父親でもなかった。じいじ、ばあばがサンタクロースだったのだ。
年金で買ったプレゼントを抱えたサンタクロースの登場によって、私のサプライズはスルーされた。
このたびノーベル文学賞を受賞されたボブ・ディランの名曲『Forever Young』は、「息子のことを思いながら、自然にうかんできた」と本人が語るとおり、自分の息子を想って作られた曲です。その曲に爽やかな絵が加わり、希望あふれる絵本「はじまりの日」になりました。
「はじまりの日」 ボブ・デイラン作 ポール・ロジャース絵 アーサー・ビナード訳
きみが 手をのばせば しあわせに とどきますように
まわりの 人びとと たすけあって いけますように
星空へのぼる はしごを 見つけますように
毎日が きみの はじまりの日
きょうも あしたも
あたらしい きみの はじまりの日
クリスマスプレゼントに絵本はいかがですか!
あなたの想いが、お子さんに伝わりますように