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本さえあれば、日日平安

本さえあれば、日日平安

長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2018/06/01 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

人生はいつもちぐはぐ

著者:鷲田清一

出版社:KADOKAWA

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人生はいつもちぐはぐ

娘は不思議ちゃんでした。ピッカピカの小学一年生だった時、授業中にトイレに行きたいと一人で教室を出た彼女。なかなか帰ってこないので心配した先生が見に行くと、トイレから帰りの道すがら、他のクラスの授業風景を教室ごとに立ち止っては、ぼーっと覗き見していたのでした。

ただぼんやりしているだけでなく、興味があるものはつい触ってしまうのも娘です。買い物に行った時、「ガシャーン」と音がして振り返ると、娘がお店の商品を落として割っていた、そんなこともありました。

妻は彼女の成長をとても心配していました。育児書で得た情報から、「7歳までは夢の中」だからと自身を納得させていました。でも娘は7歳過ぎても、8歳過ぎても、少なくても小学生の間はずっと夢の中だったように見えました。
でも私は、そんな娘が大好きで、何をしても『カワイイね~』と言うだけのチャラ男の様な父親でした。外では大人しいのに家の中では威張る人を内弁慶と言いますが、私は完璧な内チャラ男でした。

テストの点数が悪くても、『イヤイヤ、お父さんよりは出来がいいよ。』と成績についてとやかく言った覚えはありません。ただただ甘いだけの父親でした。だから今でも娘は、『私はお父さんから叱られたことがない、褒められた記憶しかない。』と臆面もなく言います。
娘は公立高校の普通科でしたが、早くから卒業後は働くと言っていました。本人の希望なので無理に進学は勧めませんでした。それでも少し心配で、『カワイイだけじゃ世の中渡っていけんよ。何か資格を持っといた方がええよ。』とだけアドバイスしました。

カワイイのところは『ウン、知ってる~』と答え、資格のところも『分かった!』と素直に返事をした娘は、高校卒業までに車の免許を取り、卒業後は職業訓練校で医療事務を、働きながら登録販売者の資格も取りました。
娘はいくつかの資格を得て、いつの間にか私などより随分と実務的で役に立つ、そして潰しが利く働き手になっていました。

資格を得たことで時給も上がり、腰を据えて仕事を続けるものと思っていました。しかし娘は突然仕事を辞め、NHKのラジオ講座で独自に勉強していた中国語を試すため、台湾に短期留学をしました。
それでも半年間と短く、当然の様に終われば帰ってくるものと思っていましたが、ワーキングホリデーを利用してそのまま台北に住み、日本語教師のアルバイトをして暮らし、そこで知り合った台湾男子からプロポーズされました。

夢見る不思議ちゃんとばかり思っていた娘が、ぼんやりとした粗忽ものだったあの娘が、バイリンガルになり、年末には国際結婚をするのです。何だか信じられません。


『人生はいつもちぐはぐ』 鷲田清一・著 角川ソフィア文庫 

「一所懸命にやってきたはてに、まわりから『やってあたりまえ』と言われることほど、こころが挫けることはない。」

思うようにいかないのが人生です。でも、自分の思うように出来るのも人生です。本書を読み、また娘の生き方に「負うた子に教えられる」とはこのことだと感じつつ、「もっと前向きにならんといけんなー」と内チャラ男は考えています。

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