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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2018/07/01 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

無人島に生きる十六人

著者:須川邦彦

出版社:新潮社

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無人島に生きる十六人

その昔、娘が幼稚園に行って家にいない時、昼間から夫婦で「いけない遊び」をしていた。私と奥さん二人ともに30代、まだ若い夫婦だからこそ味わえる耽美なひと時だった。

だが、それを娘の前では出来ない。教育上よくないどころか、もし彼女が目撃したらショックを受け、その後の人生を大きく変えてしまう危険な遊びだ。
だから何度も止めようとした。二人で話し合い、これで最後にしようと誓った。でも誘惑には勝てず、翌日も娘を幼稚園に送りだすと奥さんに目くばせをした。
「今日、どう・・・」、「うん、やろう。」

それは、3歳だった幼い息子に、娘のフリフリのワンピースをとっかえひっかえ着せては、「まー、カワイイ!!」と、その愛らしい姿を楽しむ着せ替え人形ごっこだ。

男の子なのに、妙に似合っていたワンピース。ピンクが特にハマった。はっきり言って娘より可愛い。だから彼女の前では、決してやっては「いけない遊び」だったのだ。
写真が残っている。娘のエプロンをつけ、ままごとセットで遊び、「ババ殺し」と呼ばれていた得意の笑顔を見せる息子。娘の水着を着て海辺にたたずむ、内股で上目遣いの息子・・・
そのうち、「あーちゃん(姉のこと)、その服かわいいね~」と言い、自分から積極的に着たがるようになり、「ちょっと、マジやばくね?」ということで、残念だが本当に止めた。

楽しく暮らしていくには自分たちで工夫をすることが必要だ。

『無人島に生きる十六人』 須川邦彦・著 新潮文庫
大嵐で船が難破し、僕らは無人島に流れ着いた!明治31年、帆船・龍睡丸は太平洋上で座礁し、脱出した16人を乗せたボートは、珊瑚礁のちっちゃな島に漂着した。
飲み水や火の確保、見張り櫓や海亀牧場作り、海鳥やあざらしとの交流など、助け合い、日々工夫する日本男児たちは、再び祖国の土を踏むことができるのだろうか?
名作『十五少年漂流記』に勝る、感動の冒険実話。

一つ、島で手に入るもので、くらして行く。
二つ、できない相談はいわないこと。
三つ、規律正しい生活をすること。 
四つ、愉快な生活を心がけること。

無人島で生き抜くため、皆で知恵を絞る。たとえ失敗しても次々と新たな工夫を始める。やるべき仕事を全員に割り振って絶え間なく働く。それは、ぼんやりする時間があると、人は悪い方へ考えを向けてしまうからだ。全員で生還するには、全員の体と心を強く保たなければいけない。その為にも楽しむ。まさに「置かれた場所で咲きなさい」だ。

明治の海の男は、とても柔軟で勉強熱心だ。何より前向きだ。そして、とにかく仲間に優しい。しっかりとした上下関係はあるが、お互いを思いやり尊重している。体育会系の良いところだけを抽出した部活のようだ。それも毎日が合宿、毎日がキャンプだ。

娘のワンピースが妙に似合った息子も23歳となり、今はユニクロのステテコとTシャツで本書を読みながら、「この面白さ、半端ないって!」と感動の声を上げている。
夏の文庫フェアに入っている作品なので、ぜひ店頭で手に取ってみて下さい。

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