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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


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本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2018/08/07 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

女子中学生の小さな大発見

著者:清邦彦

出版社:新潮社

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女子中学生の小さな大発見

読みながら、ふと思い出した。断片的なことだけだが、そう言えば「なんかいい感じ」だったこともあった。黒歴史ばかりでもなかったのだ、私の中学生時代。

授業中には仕上げられなかった美術の課題があり、小学生の頃から仲が良かったA君と二人、誰もいない早朝の運動場の隅から校舎を描いていた。確か秋の初め頃だ。
描き始めてしばらくすると、運動場を横切ってこちらに向かってくる人影が見えた。同級生の女子だった。

私とA君は並んで描いていたが、彼女は迷うことなく私の隣に座った。「どこまで出来たん、終わりそう?」と聞いてきた彼女に、「うん、まあ、ぼちぼち」とか曖昧に答えながら、「何にしに来たんじゃろーか?」と考えていた。
教室での彼女の席は私のすぐ前だ。だからA君と話していた時に、約束した集合時間を聞いていたのに違いない。でも何で・・・

その後は何か話をしたのだろうか、思い出せない。あるいは何も話さなかったのか。描くのを邪魔された記憶はないので、彼女は黙って見てくれていただけかも知れない。
そのうち皆が登校し始め、朝礼に間に合うよう教室に急いだ。同じクラスなので、もちろん彼女も一緒だ。その間も、彼女が私の隣を早足でついて来ていたことだけは、今でもハッキリと覚えている。
時に肩が触れてドキドキした記憶とともに。

美術の課題は終わらず、翌日も朝早く学校に向かった。彼女がまた来るかも・・・、少し期待していた。だから通学路の脇に花が咲いているのを見つけた時、自然と手が伸びた。一輪だけ摘み、持って行った。

彼女は胸のポケットからコスモスの花をのぞかせて、その日の授業を受けた。

『女子中学生の小さな大発見』 清 邦彦 編著 新潮文庫

正しい答えを求めるばかりが「理科」だろうか?鳥肌は顔と足首にはできない。醤油は凍らない。卵は塩水にも砂糖水にも浮く。昇りのエレベーターの中でジャンプすると体が少し浮く。タンポポの綿毛は233本ある。温泉を煮詰めたら塩が残った・・・。そんな身の周りのできごとへの疑問と感動から「理科」は始まる。現役女子中学生が見つけた「不思議」をぎっしり詰め込んだ仰天レポート集。

彼女はその後、男子と女子混合の数人のグループで遊びに出かける計画を立てては誘ってくれた。集団が苦手な私が断り続けていると、そのうち誘われなくなった。すぐ前の席なのに、私からは話かけづらくなった。
あの時、どの様な態度を取るべきだったのか。彼女は、私がどんな反応をするのかを観察していたはずだ。正しい答えは・・・

中学生の時、「女子から気になる男子として見られていた。」と、自分では「なんかいい感じ」に記憶していたが、黒歴史まではいかないけどオフホワイトな思い出だった。

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