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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2018/09/28 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

つばき、時跳び

著者:梶尾真治

出版社:徳間書店

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つばき、時跳び

私は「おばあちゃん子」でした。それも曾祖母、ひいばあちゃん子です。
幼い頃、母親がそばに居なくても意外と平気でした。でも、ひいばあちゃんの姿が見えないと、『ばあちゃん来んかった?いっぺん(一度)も来んかった?』とご近所のババ友?を訪ねては探し歩いていたのだと、母親が笑いながら教えてくれたことがありました。

野球中継でカープの試合を見ていた時、ひいばあちゃんは三振を奪ったピッチャーに対し、『打てるように投げてあげりゃあええのに、意地が悪い人じゃ。』と憤っていました。当時エースだった外木場さんも安仁屋さんも形無しです。またオリンピックの女子体操競技を見ては、『こまい子に曲芸させて・・・、かわいそうにの~』と涙していました。
良い悪いは別にして、私は勝負事が苦手です。ひいばあちゃんの言葉が、幼心に刷り込まれているようです。「人生に必要な知恵はすべて、ひいばあちゃんの膝の上で学んだ」、ということなのでしょう。

少し前に磯田道史・著『歴史の愉しみ方』(中公新書)を読んでいた時、ひいばあちゃんを思い出し調べました。私が高校生の時に90歳の天寿を全うしたひいばあちゃんは1889年、明治22年生まれです。ひいばあちゃんが二十歳前後の娘さんだった明治の後半、徳川慶喜や勝海舟はまだ健在で、伊藤博文、山縣有朋、大隈重信が総理大臣を務めていた頃だと知りました。
NHK大河ドラマ「西郷どん」には、もちろん慶喜や海舟が出てきます。ひいばあちゃんは、この人たちと同じ時を生きていた!驚きとともに親近感がわいてきます。
 
もしも、タイムマシンに乗れるとしたら何時代に行きたいかと考えた時、全く想像すらできない大昔もいいのですが、ひいばあちゃんが娘さんだった頃を、まずは一番に見てみたい気がします。

『つばき、時跳び』 梶尾真治・著 徳間文庫

肥後椿が咲き乱れる「百椿庵」と呼ばれる江戸時代からある屋敷には、若い女性の幽霊が出ると噂があった。その家で独り暮らすことになった新進小説家の青年井納惇は、ある日、突然出現した着物姿の美少女に魅せられる。「つばき」と名乗る娘は、なんと江戸時代から来たらしい…。
熊本を舞台に百四十年という時代を超えて、惹かれあう二人の未来は?

この物語には、私の好きなものが揃っていました。SF小説でタイムトラベルのお話。それだけでワクワクします。舞台は現代と幕末です。どの様な展開になるのか、ワクワクが止まりません。
ロマンス、あります。少しだけオジさんになりかけている青年と美少女です。純粋で繊細、奥ゆかしく、折り目正しい、江戸時代から時をかけてきた少女。見た目も性格も男子の理想です。守ってあげたくなります。

さらにワクワクさせられたのは、文庫帯のこの一文。

被災などなかった、
穏やかで美しい熊本城の勇姿を、
皆で味わいたいから。

梶尾真治さんのこの言葉に惚れ抜いて、
映画化を決心しました。 

映画作家・大林宣彦

時を忘れて…いや、集中しすぎて時を跳んだように感じる1冊。ぜひ体感して下さい。

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