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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2018/11/13 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
文庫
ふるさとは本日も晴天なり
著者:横山雄二
出版社:角川春樹事務所
娘の結婚式まで残りわずかとなり、事前準備のため奥さんが一足先に台湾に渡った。私と息子(独身23歳)の男子2人だけの生活が始まった。だみ声の「おはよう」で始まり、だみ声の「おやすみ」で終わる、なんとも華がない毎日だ。
帰宅しても女子が居なくて寂しい。そんな時、ガス給湯器から音声のお知らせが聞こえてきた。「お風呂が沸きました。」
『おー、女の人の声じゃ、なんか癒されるの~』と喜んでいるのは、もちろん私だけだ。情けない親父とは違い、息子はそんなことは意に介さずテキパキと動く。朝は2人分のお弁当(おにぎり)を作り、ゴミ出しをして仕事に向かう。仕事から帰ると洗濯物を取り込み、お風呂を沸かし、夕飯の支度をして私の帰りを待つ。
『明日は何が食べたい?』と息子が訊いてきたので、『野菜をたくさん食べたい。』と答えたら、翌日はキムチ鍋だった。ぐんぐん高まっていく息子の女子力。今度は作り置きレシピを勉強するらしい。
今、彼が尊敬している人物は私ではなく、伝説の家政婦、志麻さんだ。
娘は嫁ぐので次は息子だ。そう考えていると良いアイデアが浮かんだ。息子には、ハワイの女子はどうだろうか。そうすれば私たち夫婦は、台湾の娘とハワイの息子の間を行ったり来たりして楽しい老後が過ごせるではないか!
そうだ息子よ、ハワイのお嬢さんのとこへ婿入りせよ。その為にも、今は作り置きレシピと英語の勉強を頑張るんだ。君なら出来る。
お父さんをハワイに連れてってね。
『ふるさとは本日も晴天なり』 横山雄二・著 ハルキ文庫
広島の人気アナウンサー横山雄二さんの自伝的小説。ご本人をよく知っている方はかえって難しいかもしれませんが、この物語は初めて読む作家の小説として、先入観をもたないで向き合った方が、より楽しめるのではないかと思います。
主人公の横山少年は宮崎に住む中学三年生。ラジオの深夜放送と映画に夢中、ひょうきん者でクラスのムードメーカー、とにかくクワクすることが大好きな中学生。
得意な野球で入学した高校では、もちろん甲子園を目指していましたが夢かなわず、福岡の大学に進みます。大学では映画研究部で8ミリ映画の製作に没頭します。やがて就活の時期となり、おぼろげに映画監督になろうと考えていた横山さんに、お父さんからアナウンサーになったらどうかと提案があります。
普通、青春時代を描いた小説では、子どもが親に反抗する姿は定番ですが、横山さんは少年の時も青年に成長しても、それがありません。いつまでも両親が大好きです。いい加減で、時にちょっと破天荒な行動もするお父さんの生き方に、ずっと憧れを持っています。
だから、進学、就職という人生の岐路にあたる場面では、お父さんの助言や人生訓をすんなり受け入れます。このあたりは意外です。先入観を持たずに読んだ方が、と言っておきながら変ですが、普段毒を吐いている横山さんとは、イメージが違いました。
本書は父と息子の物語でもあります。横山さんの「ふるさと」は宮崎。そして、お父さんではないかと感じます。