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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2019/04/29 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
コミック
犬を飼う そして・・・猫を飼う
著者:谷口ジロー
出版社:小学館
理性的でインドア派な私に対し、うちの奥さんは野生的なアウトドア派です。鳥取県出身の奥さんは、幼少の頃から夏は皆生の海で泳ぎ、冬は大山でスキー三昧と、自然の中を駆け回ってはブイブイいわしていたようです。鳥取出身の人が皆そうではないのでしょうが、あのイモトアヤコさんも鳥取出身です。
奥さんは子どもたちにもそんな体験をさせたいと、幼い娘と息子を海や山によく連れ出していました。インドア派の私は一緒に行かないことが分かっているので、いつも奥さんが一人で愛車(軽のワンボックス)に子どもたちと遊び道具を詰め込んでは、『よっしゃ、行くど~』と、準備もそこそこに飛び出していました。
思いついたら即行動の奥さんは遊んだ後の撤収も早く、泳ぎに行った帰りは子どもたちに大きめのTシャツを着せていただけで、おパンツなんぞはかせてはいません。小さな子どもなら、そんな格好をしていても「あらま~」ですまされますが、実は…
このワイルドでクセがすごい奥さんのおかげで、私はもう一つの故郷が持てました。鳥取に帰るときは、万難を排して喜んで付いて行きます。その時だけは、にわかアウトドア派です。
鳥取といえば夏です。瀬戸内海とは違う日本海の波には驚かされます。伯耆富士と呼ばれている大山は美しく、さすが中国地方唯一の日本百名山です。お酒がダメな私ですが、大山の地ビールだけは美味しいと感じます。
平成最後で令和最初のGWは、ぜひ鳥取に!
『犬を飼う そして・・・猫を飼う』 谷口ジロー・著 小学館
鳥取に帰った時は、もちろん書店にも立ち寄ります。地方の書店でチェックするのは、地元にゆかりのある作家コーナーです。鳥取出身の漫画家といえば「ゲゲゲの鬼太郎」の水木しげる、「名探偵コナン」の青山剛昌、そして谷口ジローがいます。
谷口ジローの作品は、以前このコラムでも「遥かな町へ」、「欅の木」を紹介させて頂きました。本書はタイトルからお分かりのように犬と猫との生活を描いた短編漫画集で、著者の実体験を基に描かれています。また漫画だけでなく、作品のモデルとなった犬と猫についてのエッセイも収録されています。
「犬を飼う」は、子どもがいない夫婦が愛犬と暮らしているのですが、その犬も14歳と老犬となり、日課の散歩もままならなくなります。次第に衰えていく愛犬と、その最期を看取る夫婦の日常を丹念に描いた作品です。
愛犬の死を描いていますので、悲しい話ではあります。でも一緒に暮らしていたからこそ、遊ぶ、散歩する、かわいがるという楽しい日々があったわけです。人に寄り添って暮らしてくれている生き物が、どれほど人にとって大切で、かけがえのない存在なのかを感じさせてくれる作品です。
「そして・・・猫を飼う」は、愛犬を看取った後、もう動物は飼わないと思っていた夫婦が、動物保護団体から行き場のないペルシャ猫を、なかば強引に押し付けられるのですが、実はその猫は妊娠していて、まもなく仔猫を3匹産むことになります。「しょうがないな~」と言いながら、産まれた仔猫も一緒に家族として迎え入れるという、ほのぼのとしたお話です。あとに続く「庭のながめ」、「三人の日々」と合わせて猫三部作となっています。
最初の「犬を飼う」が描かれたのは、実は1991年と28年前の作品で、過去に何度か「犬を飼う」というタイトルで単行本として出版されています。私も文庫版を持っていました。
今回の書名が「犬を飼う そして・・・猫を飼う」となったのは、「犬を飼う」というタイトルだけでは、手に取ってくれるのが犬好きの人だけで、せっかく猫のいい話が3話も入っているので、猫好きの方にも知ってもらいたいという願いからだそうです。
そして、こうして何度も単行本化されるのは、作者の谷口ジローのファン、あるいは犬好きの方が知っているだけの、いわゆる「隠れた名作」と言われるのではなく、もっと多くの人に読んで頂きたい作品だからです。
令和の時代となっても、必ず読み継がれていく作品だと思います。