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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2019/08/10 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
文庫
あひる
著者:今村夏子
出版社:KADOKAWA
私の肩に小鳥がとまっている。愛称はキイちゃん、本名を喜助(きすけ)という、うちの奥さんが溺愛しているオカメインコ(オスで5歳くらい)だ。マメルリハやボタンインコなど、これまで他の小鳥も飼ってきたが、「オカメインコが一番かわいい!」と彼女はいう。
確かにルックスはとても愛らしい。ほっぺに「オカメ」の由来であるオレンジ色のチーク模様がある。奥さんが頬ずりしたくなる気持ちもわかる。優しく頭を撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細める。見た目だけでなく、しぐさも愛らしい。
オカメインコのことを調べてみた。温厚で大人しい、甘えん坊で懐きやすい、つまりとても飼いやすい鳥だ。でも臆病で神経質なところもある。怖かったり、驚いたりして、パニックを起こすこともある。これを「オカメパニック」というらしい。
なるほど、と思わず膝を打つ。これは彼女の夫である私の性格、そのままではないか。奥さんがオカメインコを好む理由は、見た目だけでなく、この性格にあったのだ。
いま奥さんはキイちゃんにベタ惚れだ。私はかまってもらえない。寂しくてパニックを起こしそうだ。
でも大丈夫だ、落ち着け自分。キイちゃんと私の性格は酷似している。奥さんの好きなタイプであることは間違いない。ならば、あとは見た目だ。
私もオレンジ色のチークを入れてみようか・・・
奥さんは、キイちゃんを部屋の中に放したまま、何事かの用事をすることがある。奥さんが相手しないので、キイちゃんは読書中の私のところに飛んで来ては、肩や頭の上に乗る。
薄いTシャツだとキイちゃんの足の爪が食い込む。さらに首のホクロを噛んでくる。キイちゃんにしたら「誰か、かまって!かまって!」のサインなのかも知れないが、肩や首筋がチクチク痛い。すごく痛いわけではなく、チクチクとした痛みだ。
愛らしいのに、チクチクとした痛みを感じる。『あひる』に収録されている作品は、どれもそんな話だ。なので、子どもや動物に癒しを求めている人は、読まない方がいい…かも
『あひる』 今村夏子 角川文庫
あひるを飼い始めてから子供がうちに遊びにくるようになった。あひるの名前はのりたまといって、前に飼っていた人が付けたので、名前の由来をわたしは知らない―。わたしの生活に入り込んできたあひると子供たち。だがあひるが病気になり病院へ運ばれると、子供は姿を見せなくなる。2週間後、帰ってきたあひるは以前よりも小さくなっていて・・・。日常に潜む不安と恐怖をユーモアで切り取った、河合隼雄物語賞受賞作。
誰でも過去に一度は「子ども」だった。だから経験しているはずだ。
このチクチクする、心の痛み。