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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2019/11/08 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


フィクション

線は、僕を描く

著者:砥上裕將

出版社:講談社

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線は、僕を描く

読むのが苦手なジャンルがあります。海外小説です。登場人物のカタカナの名前が判別できず、途中で分からなくなるからです。誰と誰がアレして、誰と誰はナニな関係で・・・、こんがらがって、その都度、最初にある人物紹介のページを見直すようになります。
コミュニケーション能力が優れた主人公だと、知り合いがどんどん増えていき、登場人物も増えて大変なことになります。「パーティなんか、すな!」と千鳥のノブさんのようにツッコミたくなります。

やがて人物紹介のページに戻るのも面倒になり、「自分、不器用ですから・・・」と言い訳して本を閉じます。でも、海外小説はダメでも海外映画だと大丈夫なのは何故でしょうか。

映画だと想像しなくても目の前に現れます。動きがあり、見た目や声で人物の判別も容易にできます。どちらがエンタメとして優れているというのではなく、映画と小説では愉しみ方が異なるのだと思います。

小説を読んでいるうち、目の前にその場面が現れることがあります。まるで映画を観ているかのように。でも本書を読むと、もっと凄いことが起こります。水墨画で描かれている薔薇が、真っ赤に見えてくるのです。

『線は、僕を描く』  砥上裕將  講談社

両親を交通事故で失い、喪失感の中にあった大学生・青山霜介は、アルバイト先の展覧会場で水墨画の巨匠・篠田湖山と出会う。会場で湖山の孫・千瑛の絵を見た霜介は、白い画面の中に黒一色で描かれている薔薇に燃えるような赤を感じる。「この絵は白のためではなく、いまある赤のためだけに描かれたような気がした。」
なぜか湖山に気にいられ、その場で内弟子にされてしまう霜介。反発した湖山の孫・千瑛は、翌年の「湖山賞」をかけての勝負を宣言する。
水墨画とは筆先から生み出される「線」の芸術。描くのは「命」。はじめての水墨画に戸惑いながらも魅了されていく霜介は、線を描くことで回復していく。そして一年後、千瑛との勝負の行方は。

墨をする場面では墨の香りが、描く場面では線を引く音が聞こえ、大胆かつ繊細な手の動きが見えてきます。
言葉では表せない世界を、言葉で表現する。本物の水墨画家である著者が、言葉で描く心象風景は、深くて優しい色にあふれています。

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