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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2020/02/01 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
ノンフィクション
おべんとうの時間
著者:阿部了・写真阿部直美・文
出版社:木楽舎
わが家は今年2回目のお正月を迎えている。いま何かと話題の春節、いわゆる旧正月というもので、台湾から1年ぶりに娘夫婦が帰ってきているからだ。
日本のお正月気分も味わってもらいたいが、いかんせん1月末だ。おせち料理はさすがに出せない。おもちだけで勘弁してもらったが、台湾男子の婿殿に気に入ってもらえたようで良かった。
何しろ彼は、娘の手料理を何でも美味しいといって食べてくれているそうだ。尊敬に値する青年だ。
台湾男子の彼は、生まれてこのかた、まだ雪を見たことがないらしい。本当ならスキーに連れて行ってあげたいところだが、おせち料理と同様に諸事情でそうもいかない。それならばと娘は、彼を福山メモリアルパークのアイスアリーナに連れて行った。幼い頃の娘たちと行っていた屋外のスケート場だ。
これまた生まれて初めてアイススケートに挑戦する彼の姿は、期待通りに娘を笑かしてくれたようだ。そうだ、嫁さんを楽しませるのが旦那の任務だ。いい仕事をするではないか、台湾男子。
だが娘を笑かす道化師は、これまで私だったのになぁ、と考えるとちょっと悔しい。
春節の休みを満喫している娘は、ある日、久々に地元の友達と会うために出かけると言っていた。女子会だからと、旦那はひとり残された(実際には息子が子守り役になった)。
そうでなくても彼は今、嫁さんの実家に居るという緊張状態にあるはずだ。私にも覚えがある。1人にさせられると、本当にいたたまれない。
でも、娘と離れた彼が寂しそうにしている姿を想像した私は、同情というより、ちょっと嬉しくなった。たぶん意地悪な顔をしていたのではないだろうか。道化師の裏の顔というところだ。
娘を日本に残して彼だけ台湾に帰ってもらおうか…、いけずなことを考えながら絵本を棚に並べていた私は、「図鑑はどこですか?」というお問い合わせを受けた。振り向きざまに素早く意地悪な顔から、いつもの良い顔?に変えながらご案内した。
そこに居たのは、女子会に出かけたはずの娘とお馴染みのメンバーだった。爆笑している彼女たちは、私の接客を棚の陰からモニタリングしていたのだ。
仕事ぶりを見られたのは恥ずかしいが、店まで会いに来てくれたのは嬉しい。AKBは会いに行けるアイドルだが、書店に勤めている私は、会いに・行ける・お父さん、AIOなのだ。
そういえば娘が幼い頃、店までお弁当を持って来てくれたことがあった。店の入口で妻から、「お父さんに渡しておいで」と指令を受けた娘は、「おとーさん、おべんとう!」と大きな声で元気よく店内を駆けて来たものだ。私が接客の最中でもお構いなしに…
「おべんとうの時間」阿部 了・写真 阿部 直美・文 木楽舎
おべんとうハンター阿部夫婦が全国各地でみつけた家族のおいしい物語。全日空機内誌『翼の王国』の人気No.1エッセイ、待望の書籍化!
本書はお弁当のレシピ本ではありません。阿部夫婦(夫・カメラマン/妻・ライター)が全国各地の手作り弁当を二人三脚で取材したフォトエッセイ集。海女、釣り堀経営、素麺職人、高校生、猿まわし、営業マン、大学教授……市井の人たちが照れながら見せてくれた手作りのお弁当。 食べながら語られるのは、仕事のこと、家族のこと、こどもの頃のこと…。そこには、お弁当の数だけ絆の物語がありました。
本書を読むと、子供のころのお弁当が懐かしく思い出され、また、手作り弁当を味わいたくなる、そんなあたたかな一冊です。
書店に勤めて35年。それでも悩む「働くって、何だろう」と。そんな時に手にするのが「おべんとうの時間」。様々なお弁当と美味しそうに頬張るご本人の写真。そして、その人の仕事や生活についての聞き書き。普通に働いている人達の仕事への向き合い方や心がけ、さり気ない一言が心に沁みる。
聞き書きなので、読みながらその人の話を聞いているはず。でも何故か、悩みを聞いてもらった時のように気分が楽になり、元気づけられる。